Stained Glass Windows of Morris & Co.
By William Morris,1869 初期のMorris, Marshall, Faulkner & Co.(モリス・マーシャル・フォークナー商会、後のMorris & Co.,モリス商会)にとって、もっとも重要な仕事はステンドグラスの製作でした。
モリス・マーシャル・フォークナー商会のステンドグラス製作に特に重要な働きをしたのは、色彩計画と鉛線分割案および植物デザインを担当したWilliam Morris、人物デザインを担当したEdward Coley Burne-Jones、動物デザインおよび建築設計担当のPhilip Speakman Webb、そしてステンドグラス製造会社、ヒートン・バトラー・ペイン商会に雇われていた絵付師のキャンプフィールドでした。
モリス自身も、初期には人物もデザインしました。モリスの人物デザインのフラットで中世的な持ち味は、個人的には好みなのですが、他のアカデミックな教育を受けたデザイナーたちの作品と比べた時、お世辞にも上手とはいえないものでした。
しかし、人物を取り巻く植物のうねるようなデザインは、ケルトの血の流れるモリスの独壇場で、他のステンドグラス工房の作る作品と大きく異なっていました。
モリスの担当した色彩計画と鉛線の分割案は、地味な仕事に思えますが、実際には、モリス商会のステンドグラスをユニークなものにするのに、大きく貢献しました。デザイナーの描く下絵は、多くの場合、単色の線画であり、それを実際のステンドグラスに仕上げるためには優れた製作監督が必要でした。
モリスは、それぞれのデザインにふさわしい色彩を検討し、さまざまなカラーのグラスの小片をつなぐ鉛線の分割デザインを決めていたのです。
このモリスの才能により、モリス商会のステンドグラスは、ユニークなカラーリングで、大きな評判を呼びました。
当時のステンドグラスの色彩は、ヴィクトリアン朝の時代背景もあって、かなりけばけばしい色彩が多かったようなのですが、モリス商会のグラスの色彩は、より落ち着きのある、シックで微妙なカラーリングだったのです。
By D.G.Rossetti,1863 また、モリスやバーン=ジョーンズのほかにも、Dante Gabriel Rossetti、Ford Madox Brownなど、当時評判を呼んでいた「ラファエル前派」の画家たちもデザインを担当していたのが、モリス商会の産み出すステンドグラスのユニークな点でした。
当時のゴシック・リバイバルのステンドグラス・ウィンドウ・デザイナーたちは、人物を描く際に、権威を持たせるためか、やたらと荘厳、静的なデザインを採用する傾向があったようです。
たとえば、当時随一の人気を誇ったステンドグラスデザイナー、Charles Eamer Kempeのデザインです。彼の人物像は上品でおごそかですが、ちょっと近寄りがたい雰囲気を漂わせています。また、ヒートン・バトラー&ベインや、パウエルズなどの大きなステンド・グラス・ファームの作品も、人物造形に関しては、同様の傾向がありました。
これらのデザインに比較すると、モリス商会のデザイナーたちは、たとえキリストや聖人であっても人間として描くことに徹しており、喜怒哀楽の表情を豊かに描出しています。その違いは、後の時代のステンド・グラス・デザイナーたちに大きな影響を与えているように思います。
ただし、モリス・マーシャル・フォークナー商会が、モリスのみを代表とするモリス商会に改組してから後は、これらのラファエル前派の画家が商会のステンドグラスのデザインをすることはほとんどなくなりました。
このように作風の異なる複数のデザイナーが作成したにもかかわらず、モリス商会のステンドグラスが統一性を持ち得たのは、全体を統括するモリスの力によるものでした。
By J.H. Dearle,1920 モリスが1896年に亡くなった後も、モリスの弟子、ダール(J.H.Dearle)が製作監督となり、かつてのコピーデザインによるステンドグラス販売を続行しました。そして1932年にダールが亡くなった後は、ナイト(W.H.Knight)に商会のステンドグラス製作は引き継がれましたが、かつてのまばゆいばかりのモザイクシステムはもはや影をひそめてしまったのです。モリスという偉大な製作監督を失ったモリス商会には、新たに素晴らしいステンドグラスを作る能力は、もはやなくなってしまい、1940年にその幕を閉じたのでした。
なお、モリス商会のステンドグラスは、英国中のParish Church(教区教会)やAbbey(大修道院), Cathedral(大聖堂)にたくさんあります。その数はかなり膨大なようで、果たしていくつあるのか、まったく把握できていません。
英国旅行に出かけるたびに、あらかじめ調べておいた教会を訪れ、そのステンドグラスを撮影させていただいておりますが、場所によっては鍵がかかっていて、中に入れない教会もあります。昨今は英国の田舎でも治安が悪くなったのか、教会内部の物品の盗難防止のため、鍵が下りているわけです。
By Edward Burne-Jones,1867 そんな場合は、まずご近所を訪問して、来意を説明し、誰か鍵を持っている人を知らないか、尋ねることにしています。はじめはいぶかしげにこちらの話を聞いていますが、ほとんどの場合、一生懸命話せば、親切に教えてくれます。時には鍵を持っている人のうちまで一緒に行ってくれた人もありました。散歩中の人を捕まえて尋ねることも良くありました。英国の田舎は親切な方々が多く、本当に助かりました。英国の田舎の教会めぐりという病気は、なかなか治りそうもありません。
ただし、注意しなければならないことは、あくまでも地元の方々の信仰の対象ですから、失礼のないように振舞わなければならないということです。これは当たり前のことですが、もし中に入ってお祈りをしている方がいらっしゃったら、決して邪魔をしてはいけません。また、写真を撮る際にも、必ず一言声をかけて、許可を取ってください。
Designers | モリス商会のデザイナー、およびアーツ・アンド・クラフツ・スタイルのステンド・グラス・ウィンドウのデザイナーの一覧です。 |
Places to visit | 私が訪問した、モリス商会およびアーツ・アンド・クラフツ・スタイルのステンド・グラス・ウィンドウを見ることのできる場所のリストです。 |