VET IN HARNESS (1974, Michael Joseph Ltd.)


この本では、ヘレンと結婚したヘリオット先生が楽しい新婚時代を過ごし、英国空軍に参加するところまでが紹介されています。1930年代ののどかな時代のエピソードばかりで、近代的な薬も治療方法もなく、農夫たちは独自のおもしろい治療法を編み出したりしているのでした。

やはりヘリオット先生の真骨頂はこの時代のものに多いような気がします。
にもかかわらず、このVET IN HARNESSには邦訳されていないエピソードが16編と、ヘリオット先生の本の中では、最も多く、またかつてちくま文庫から出ていた邦訳本「ヘリオット先生の動物家族」も現在絶版(2003年4月現在)となっており、一刻も早く完訳版の期待される一冊です。

下記にVET IN HARNESSの各章の概要をご紹介します。なお、下記の内容は、1975年にPan Booksでペーパーバック化された際のエディションに基づいております。


内容 邦訳
1 日曜日の午前1時にハロルド・イングルデューさんから羊の具合が悪いので往診して欲しいという電話。ハロルドはしらふの時にはとても内気な人だが、酒が入ると人が変わり、大声で歌う。彼の農場に駆けつけると、やはり大声で「ネリー・ディーン」を歌っていた。凍りつきそうな農場で診療を終え、ヘリオット先生は家に戻り暖かなヘレンの隣に潜り込んで再び眠りにつくが、イングルデューさんのご近所は、あの大声の唄でしばらくは寝付けないだろう。 動物家族:第1章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
2 結婚してから、朝診療に出かけるときには、ヘレンがスケルデールハウスの最上階の窓からナプキンを振って見送ってくれるようになった。コーナーさんの農場に出かける。ここにはくるまを追いかける犬、ジョックがいる。彼は7匹の子犬を授かる。子犬たちが成長したとき、車の追いかけっこでジョックは負けそうになる。子犬たちが売られて行ったとき、ジョックは再びトップランナーとして車を追いかけ始めるのだった。 動物家族:第2章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
愛犬物語:上巻第13章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
犬物語:第3章 (集英社文庫、大熊栄訳)
3 画家のパートリッジはダロウビーで一番の変人として知られている。彼の犬、パーシーは出自の良くわからない雑種犬。あるとき、パートリッジが心配げにパーシーを診療所につれてきた。彼はパーシーのどこが悪いのか、なかなか言い出しかねていた。よくよく聞いてみると、左の睾丸が少し腫れてきている。単なる肉腫なので、手術して切り取ってしまおうと提案するが、パートリッジは手術で犬が死ぬと思い込み、手術を拒否する。 愛犬物語:上巻第14章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
4 画家のパートリッジの犬、パーシーの睾丸はますます大きくなり、町の話題にまでなってしまう。ようやくパートリッジを説得し、手術で肉腫を切り取る。組織を調べてみると、サルトリー肉腫であった。ほどなく、パーシーの睾丸はまた大きくなってしまう。肉腫の再発である。スチルビストロールという薬を処方してなんとか治療したが、その薬の副作用なのか、パーシーは雌としての魅力を振りまき始め、町中の雄犬がパーシーを追いかけてくるという珍現象が発生した。 愛犬物語:上巻第14章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
5 デイカーさんの巨牛のツベルクリンテストの結果を調べに行き、あやうくつぶされそうになる。その後、トンプキン夫人のインコのくちばしを切りに行く。診察しようとして籠から出したら、インコは死んでしまった。あわてたヘリオット先生は町の飼鳥協会の会長のアーモンドさんを訪れ、似たインコを買って来る。しかしこのインコは前のと違い、しゃべるインコだった。トンプキン夫人が「前のインコと違う気がする」と言い出し、あわてるが、それは喜びの声だった。 動物家族:第18章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
6 老犬のダイナ、子宮蓄膿症で手に負えない。小動物の手術では定評のある、ハーチントンのグランヴィル・ベネットのもとに連れて行く。グランヴィルの診療所は近代的で素晴らしく、またグランヴィルの手術の技術も超一流で、無事にダイナの手術を終えることができた。グランヴィルは、そのタバコ屋が開けるほどのパイプや刻みタバコを見せてくれ、高級品の缶入りタバコ、ネイビーカット・デラックスを惜しげもなくヘリオットにくれた。その後、グランヴィルと一緒にお向かいのクラブに飲みに行くことになった。 動物家族:第15章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
愛犬物語:上巻第15章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
7 クラブで、グランヴィルにわずかな間にビールを4杯も飲まされてへろへろになってしまう。その後、グランヴィルの家に行って、さらにタマネギのピクルス、ウィスキーのオン・ザ・ロック、ロースと・ビーフ・サンドイッチを食べさせられ、さらに体調が悪くなってしまう。そんなときにグランヴィルの妻、ゾーイが帰宅する。彼女はすこぶるつきの美人だった。ヘリオットはゲップをし、醜態をさらしてしまう。ダイナを連れて家路を急ぐが、術後のダイナのほうがヘリオットより体調がよさそうなぐらいだった。 愛犬物語:上巻第15章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
8 未亡人のダルビーさんの農場の牛が、寄生虫による気管支炎でやられてしまう。ヘリオット先生は気管支にクロロホルム、テレビン油、クレオソートからなる古臭いカクテルを注射をして様子を見るがはかばかしくない。12頭が死んだが、ダルビーさんは「牛がいれば死ぬこともある」と気丈だった。 動物家族:第12章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
9 ダルビー未亡人の農場で再びトラブル発生、原因不明の病気で牛が痩せていく。ヘリオット先生の治療も効果が上がらず悶々としているときに、眼鏡をかけたような子牛の顔を見て銅の欠乏症であることが判明。治療は劇的な効果を上げる。20年後、いまや子供たちは大きく育ち農場経営の大きな力となっている。ダルビーさんの苦労は報われた。そしていまだに文句一つ言わず、ヘリオットにお茶が気に入ったかどうかのみを聞くのだった。 動物家族:第13章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
10 ダロウビー近辺には風変わりな畜主が多い。マーケットの立つ日にぐでんぐでんに酔っ払い、診療所の入り口で「電話を持った」演技をしながら、「もしもし」と話し始めるジョー・ベントリー、動物の病気が心配なのに、異常にけちで「診療にいくらかかる?」と質問ばかりしていて結局は獣医を呼びたがらないビギンズ氏。電話で往診を依頼してきたボブ・フライヤーは表現力が極端に貧しいのか意地が悪いのか、何を聞いても意味不明瞭。あいまいな症状しか知ることができず、予診ができない。 未訳
11 晩秋のある寒い日、バトラー氏の農場を訪れたとき、池のほとりの灯芯草の中に小さな黒猫がいるのを見つけた。死にそうになっていたその猫をバトラー夫人は昔からの方法、つまりオーブンの中に入れて暖め、奇跡的に命を救う。バトラー夫妻はその猫にモーゼスと名づけた。バトラーさんはモーゼスを暖かな豚小屋で育てた。驚いたことに、モーゼスは牝豚のバーサになついてしまい、豚のお乳で育つことになったのだった。 猫物語:第7章 (集英社文庫、大熊栄訳)
12 風変わりな畜主、その2。ドーソンさんは獣医は地下に住んでいると思いこみ、地下室に向かって挨拶をする。コーツさんは獣医は眠らない人種だと思っており、真夜中に電話をかけてくる。グレインジャー氏は土曜日にはいつも夕食の邪魔をしに来てきっちり10分しゃべっていく。ヒューイソン一家はシーグフリードをクリスマスケーキ鑑定家の第一人者として崇め奉っており、ある日いつもと違うケーキを彼に試食させたら、たちどころに「これは違う!」と見破られ、その名声はさらにとどろくことになった。 未訳
13 ボスワース大佐の黒猫、モーディーが車にはねられて、下顎粉砕の大怪我をする。そのあまりのひどさに、いったんは安楽死させるしかないと考えたが、思い直してグランビル・ベネットの診療所に連れて行くことにした。例のごとく素晴らしい手術の後、グランビルは、「エディンバラからミリガン教授が北部獣医師協会のために話をしに来るので、聞きに行こう!」とヘリオットを誘う。たまたまよそ行きの格好をしてきていたし、講義だったらアルコールを飲まされることはないだろうと思い、ヘリオットも参加することにした。 未訳
14 グランビルのベントレーは雪のボーズムーアを超えてどんどん西へ走る。ミリガン教授の話はなんとペナイン山脈の反対側、アップルビーで行われるのだった!無事アップルビーに到着。話は面白く、料理やお酒をたっぷりと楽しんで家路へ。しかしペナイン山脈は大雪で道路は凍結。吐気がするほどの体調でハーチントンに帰る。またしても最悪の状態で美しいグランビル夫人、ゾーイに会うことになってしまった。翌日、AAの人に「ペナイン越えの道は不通。ここ2日間は誰も通っていない」と言われて、笑ってしまう。 未訳
15 ヘリオットは不必要なものをよく買ってしまい、ヘレンに怒られている。ある日、リーズの研究所に症例サンプルを届けに行ったついでに、新婚家庭に必要な調度品を買いに家具のオークションに行ってみた。美しさに見とれてしまい、必要もないのに「世界の地理全24巻」を競り落としてしまう。重くかさばる全集を苦労して持って帰ってくるが、誰もほめてくれない。しかもかび臭い匂いがするので、地下室に持って行ってくれとみんなに疎まれる。この全集、二度と地下室を出ることはなかった。 未訳
16 人間のお医者さんと間違えて診療所に来る人もいる。若い女性が「妊娠の検査をしてください」と言ってきた時には大いにあわてた。あるアイルランド人が耳が痛いと来院。トリスタンが牛用の超大型注射器を持ち出すと、「何の医者だ?」と聞く。獣医、と答えると、一目散に逃げてしまった。ダロウビーの鼻つまみ、ゴバー・ニューハウス、足に釘が刺さる。ヘリオット先生、破傷風の恐怖を話してからかい、アリンソン先生のところに連れて行く。アリンソン先生に破傷風予防の痛い注射を打たれ、ゴバーは散々な目にあう。 未訳
17 ある日田舎道をドライブしていると、真剣な面持ちで何かを追いかけるように走っているボーダー・テリアに出会う。飼い主に捨てられたのだ。ヘリオットは家に連れて帰るが、二匹も飼うことができない。ローズ看護婦長が捨て犬を保護していることを思い出し、彼女のもとにその犬を連れて行く。ローズ看護婦長はほとんどボランティアで捨て犬を世話している女性で、こころよくその犬を預かってくれ、ピップと名前をつけてくれた。 愛犬物語:上巻第16章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
18 しばらくしてシスター・ローズのところを訪問すると、もうピップはもらわれて行った後だった。ダロウビーのブレンダリースさんが新しい飼い主だとのこと。1週間もたたないうちに、診療所にブレンダリース夫妻がピップを連れてやってくる。徹底的な身体検査をしてくれとのこと。さらに、ジステンパーの予防注射。ボーダー・テリアを飼うためにどうしたらよいか、などの質問。ピップはすばらしい飼い主にめぐり合うことができたのだった。 愛犬物語:上巻第16章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
19 冬のヨークシャーは厳しい。唯一の楽しみはヘレンとのトランプ。しかしベジークではいつもヘレンに完膚なきまでにやっつけられてしまう。ある晩、負けがこんで嫌気がさしてきたとき、レグ・マラビーが薬を買いにやってくる。彼はヘレンが製粉所で経理事務をしていることを知っており、彼女からの請求書が間違っていると苦情を言う。購入年月日のところのDitto(同上、同前という意味)をDoと省略して書いてあるのだが、レグは「わしゃドゥなんちゅうものをこったらたくさん買った覚えはねえだ!」と言い張るのだった。 未訳
20 キットソン老人に呼ばれて雌羊の助産に出かける。彼は獣医を呼ぶタイミングが遅く、そのためにいつも重労働になってしまうのだった。無事、その助産が終わったとき、羊小屋の片隅でもう一匹の雌羊が死にかけているのを見つける。あまり苦しんでいるので放っておけず、麻酔薬を注射して安楽死させようとした。数日後、キットソンの農場を訪れたとき、この死にかけていた羊が全快しているのを見て驚く。48時間眠りっぱなしだったとのこと。麻酔薬で痛みを取り除いてやったことで、自然治癒したのだった。 未訳
21 ファクストン夫妻のプードル、ペニー。ひどい下痢、嘔吐、腹痛で衰弱しきってしまい、あとは安楽死しかないように思える。しかし先日のキットソン農場での雌羊のことを思い出し、麻酔で眠らせて自然治癒させることを思いつく。麻酔薬で48時間眠らせたら、見事にペニーは回復した。このケースも痛みからの解放が奇跡的な回復を動物に与える良い例だった。 愛犬物語:上巻第17章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
22 お産の遅れている犬、シンディ。飼い主は注射をしてくれと言い張るが、まだその時期ではないからと、断る。たまたまシーグフリードが往診したときにその時期となり、注射をして無事シンディは出産。ヘリオットは藪医者扱いされる。しかも飼い主の名前を3回も間違え、最後にはミスなのにミセスと呼んでしまい、また怒られてしまう。 愛犬物語:上巻第18章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
23 ヘレンと結婚して以来、食生活が充実しすぎて太り気味。そんなある日、朝の6時にホーナー老人に子牛の助産に呼ばれる。ホーナー老人が手伝ってくれれば楽なのだが、彼はやせぎすで頼りにならず、結局一人で助産をこなすしかなかった。無事終了したとき、朝飯を食べて行けと誘われる。ありがたく頂戴するが、ホーナー家の朝食のハイライトは、ほとんど脂身しかない巨大なベーコン。脂身が死ぬほど嫌いなヘリオットは、ピクルスを一緒に食べることで、なんとか食べ終わったが、地獄の苦しみだった。 未訳
24 6月のある日、ブレンキンソップ副牧師に、クリケットのメンバーに誘われる。レインビーのチームメンバーが不足しているとのこと。ヘリオットはスコットランド育ちなのでクリケットに詳しくなく、躊躇するが、結局は承諾する。ヘドウィックで行われる試合にクリケット用の白い服を着て参加するが、他のメンバーはまったくの普段着。しかもクリケットグラウンドは山あり谷ありの草の中。基本ができていないのでまるで駄目。投手をやらせてもらうも、こてんぱんに打ちまくられ、やむなく降板させられる。 未訳
25 デイルズでの草クリケットの続編。投手失格で、谷間にある外野を守ることになった。球が飛んでこない。暇をもてあましているときに、イージー・フライが飛んできたが、落としてしまい、大笑いされる。大いにおちこんで攻撃へ。当然ながらヘリオットの打順は最後。いつの間にか陽は落ち、雨が降ってきた。打順が回ってきたが何も見えない。とりあえずバットを振り回してみると、驚くべし、7点も稼いでしまう。あと2点取れば逆転だったが、そこで試合終了。試合後のパブでの食事のときにキャプテンに大いにほめられる。 未訳
26 ウィルキン氏は競技会用のシープ・ドッグを育てていた。その中の期待の一匹、ジップがときどきひっくり返って痙攣する。この犬は生まれつきの癲癇だった。また、ジップは、生まれてこのかた、一度も吠えたことがない。ある日、メラトンのシープドッグ競技会で、ジップの兄弟犬だったスイープが見事な技量で優勝した。それを見ていたジップは感極まって「ワン!」と吠える。しかし後にも先にも、ジップが吠えたのはこの一回だけだった。 犬物語:第6章 (集英社文庫、大熊栄訳)
愛犬物語:上巻第19章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
27 ディモック家は11人の子供のいる大家族。その子供の一人、小児麻痺のネリーは、彼女だけの犬、コッカースパニエルのトビーを飼っていた。しかし、このトビー、何を食べてもすぐに吐いてしまう。さまざまな治療を試してみるが、どれも効かずにトビーはどんどんやせ衰える。ある日、診療所でトビーが吐いているのを見て、ヘリオットはトビーが生まれつき幽門狭窄であることを見抜き、すぐにグランヴィルに電話し手術を依頼する。 愛犬物語:上巻第20章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
28 グランヴィルの手術はいつものようにすばらしいものだった。トビーの手術後、ヘリオットは昼食に招待される。昼食の前に支部に顔を出しに行こう、と誘われて出かけたのは、またしてもパブ。例によって瞬く間に大量のビールを飲ませれてしまい、へろへろになる。グランヴィルの家にランチに帰ったときにはもう最悪の体調で、またしてもグランヴィルの美人妻、ゾーイに醜態をさらすことになってしまった。 愛犬物語:上巻第20章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
29 もうじき空軍に召集されるというのに、家もお金もなく、しかもヘレンは妊娠していることが分かった。ヘリオットは計画的に貯金をしてこなかった自分を呪う。シーグフリードはすでに空軍に召集され、彼のダロウビーでの最後の晩に二人でウィスキーを飲む。驚いたことに、彼はヘリオットに50ポンドの借りがあると言い出した。しかし、後で気がついたのだが、実際にはそんな借りはなかった。しかも直接手渡しして恥をかかせないよう、引き出しの中に小切手を入れておくという気の配りようだった。彼の優しさが身にしみた。 未訳
30 豚をつぶしたホジソンさんが豪華なディナーに誘ってくれた。次の火曜日の午後7時、時間のかかる仕事は入っていないので大丈夫と、招待を受けることにした。当日の午後、ウィッギンズ氏の農場へ。アメリカ西部でカウボーイをやっていたウィギンズ氏は、どうしても投げ縄で牛を捕まえると言い張るが、恐ろしくへたくそで予定より遅れてしまう。5時にダンさんの農場で豚の治療へ。強情な豚の前にビスケットを投げて、囲いの中に追い込むが、やたらと時間がかかってしまい、すでに6時になってしまった。 未訳
31 あせりながらバックル老人の農場へ。雄牛に鼻輪をつけるだけの簡単な仕事のはずだった。しかし麻酔を打った途端、雄牛は暴れ始め、農夫たちを振り切ってはるかかなたの丘へ逃げて行ってしまった。捕まえるのに1時間はかかりそうだった。しかし、バックル老人は5分で捕まえて見せるという。彼はよぼよぼの牝牛を丘の向こうに追いやる。そして牝牛を呼び戻したとき、その雄牛も一緒に戻ってきたのだった。実はこの牝牛は雄牛の母牛だったのだ。7時15分前、かろうじてホジソンさんのディナーに間に合った! 未訳
32 トリスタンがようやく獣医の資格を得て農場を往診し始めた。ある日、彼の車がダウソン老人の農場に止まっているので、その仕事振りを見に行ってみた。ダウソン老人は厳格でけちで無駄なことはしない老人だった。トリスタンは牛の中に手を入れて助産をしているところだった。そんなに難しくはないはずなのに、彼は大げさに悲鳴をあげ、いまにも気絶しそうになる迫真の演技。さすがのダウソン老人も「気付にブランデーをあげよう!」と言わざるを得なかった。とてもヘリオットにまねのできる技ではなかった。 未訳
33 クラークさんは列車の貨車の中で子牛を飼っていた。この子牛たちは手に入れたばかりなのだが、ホワイトスカーという病気で衰弱していた。ヘリオットは古い処方の注射をするが、効果があるとは思わなかった。暖かくしてやって様子を見るが、よくならない。クラークさんは死体引取業者のマロックに電話をかける。ヘリオットはその朝にサルファ剤という新薬が届いていたのを思い出し、試してみることにした。次の朝クラークさんのところに行ってみると子牛たちは劇的に全快していた。マロックは諦めざるを得なかった。 未訳
34 犬にも性質の良いのと悪いのがいる。例えばドローバーズ・アームズのダックスフンド、マグナス。爪を切るのに口輪をしただけなのに、ヘリオットに会うたびに猛烈に吠えまくる。また性質のよい犬の例は、アイリッシュ・セッターのロック。つらい手術だったのに、文句ひとついわないけなげな犬だった。ワイヤヘアー・フォックステリアのティミーはマグナスなみに険悪な犬。毒を吐き出させるのにマスタードを飲ませたが、それを根に持って、ヘリオットを待ち伏せて噛み付くのだった。 愛犬物語:下巻第1章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
35 空軍からの召集令状が届いた。出発前の最後の診療にサマーギル老人の家に往診する。彼のオールド・イングリッシュ・シープドッグのベンジャミンがひどい脱臼。でも偶然にもいとも簡単に治してしまった。こういうときに限って観客はいない。ヨークシャーの素晴らしい風景を見ながら家路を急ぐ。絶対に帰ってくるぞと決意しながら。 動物家族:第19章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
36 いよいよスケルデールハウスを後にする。8時前にタクシーに迎えに来てもらう。ヘレンが最上階の窓から泣きながら見送ってくれた。二度とヘレンから離れるようなことはしたくない、という気持ちで家を出る。当時の英国の男は誰でもそう思いながら、戦場に赴いていくのであった。 動物家族:第20章 (ちくま文庫、中川志郎訳)