VET IN A SPIN (1977, Michael Joseph Ltd.)


この本では、ヘリオット先生はウィンザーにある飛行学校に入学します。初飛行や初単独飛行の喜びを味わいますが、からだに問題が見つかって飛ばせてもらえなくなります。RAFに飼い殺しにされてしまって悶々とし、ようやく除隊してダロウビーに戻ることができます。

この本も前作のVETS MIGHT FLY同様、空軍時代のエピソードより、むしろ空軍にいるときに回想したダロウビーでのエピソードが中心となっています。

翻訳はかなりなされており、未翻訳のエピソードは4編のみとなっています。

下記にVET IN A SPINの各章の概要をご紹介します。
内容 邦訳
1 飛行学校での訓練が始まった。ウッダム中尉と空に上がり、初めて飛行機を操縦させてもらう。とても簡単だし、うまく操縦できたと思ったのに、ひどく怒られる。風が目にしみて、ダロウビーでの風の強い11月の夜を思い出した。ソウデン老人が子牛の調子が悪いと電話をくれる。風邪気味だったが往診してあげた。果実の食べすぎ。放っておけば死んでしまう。厳寒の牛小屋で、開腹手術を敢行する。見事な手術で自画自賛する。しかしソウデン老人は、「油を飲ませるだけでよかっただ」と、全く感謝してくれなかった。 未訳
2 バージさんはカージル・アンド・サンズ社の巡回販売員。彼が訪問してくる際にはいつもランチをともにして丁寧に扱う。ある訪問の際に、彼はスージットという新しい鎮静剤を紹介してくれた。早速注文する。子豚をいじめている母豚、ガートルードに注射するが、効き目がなく、ホリン老人のビールでようやくおとなしくなる。また銀行の支配人、ベレズフォードさんの犬、ココが車に酔うので、スージットを処方するが、これも効き目がない。大きな声で泣き叫ぶココを乗せてベレズフォード氏は南部へ転勤していくのだった。 おかしな体験:第17章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
3 トリスタンはマウントさんの娘、デボラとつきあっているが、父親は快く思っていない。ある日、マウントさんの馬、ボビーの足が距病にかかる。馬に詳しいシーグフリードの診察では、全治6週間。診療所に連れ帰る。マウントさんがボビーの見舞いに診療所にやってくると、待合室にヌード雑誌が置いてあるのでついしげしげと見入ってしまう。それをトリスタンに見られてしまい、気まずくなる。さらにマウントさんとシーグフリードの前で「無人車」のいたずらをしてしまい、トリスタンの評価は地に落ちてしまうのだった。 おかしな体験:第18章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
4 ジャック・サンダースの飼犬、ブルテリアのジンゴとコーギのスキッパーは大の仲良し。ジンゴは闘犬の本能で他の犬などを見つけるとすぐに喧嘩を挑む癖に、スキッパーに耳をかまれても文句を言わない。ジンゴはねずみを食べてレプトスピラに感染し、黄疸になってしまう。ジンゴが死んだとき、同時にスキッパーも生きる気力をなくしてしまい、衰弱する。寿命かもしれなかった。しかしジャックが新しいブルテリアの子犬を手に入れたとき、スキッパーはその子を見て再び生きる気力を搾り出す。 愛犬物語:下巻第14章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
5 セス・ピリングはヘリオットのことを「俺に比べて犬のことは何も知らん」と馬鹿にしている。あるとき、彼のキースハウンドが皮膚病にかかる。彼はブロートンのもぐり獣医、デナビー・ブルームのもとに連れて行き、治療を受けさせるが、硫黄、鯨油、クレゾールを使う臭くて汚い治療方法でさらに悪化して丸はげになってしまう。セスの妻がたまりかねてヘリオットのもとにその犬を連れてくる。診断は粘液水腫、ヘリオットは劇的なスピードで治してしまう。セスは妻にもヘリオットにも合わせる顔がないのだった。 愛犬物語:下巻第15章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
6 ウッダム中尉との飛行訓練の際、いっぺんにいろいろな注意をうけて頭がこんがらがってしまう。それで「家族全員がいっぺんに自分勝手なことをしゃべりまくる」バートウィスル家の人々のことを思い出した。父親は家畜の話、母親は町の噂話、息子はサッカーの話ばかり。牛のネリーの診察に行くたびに、全員の話をいっぺんに聞かされるので、対応するのが大変。いっぺんに「笑い顔」「悲しむ顔」「喜ぶ顔」を見せなければならないので、顔がゆがんでしまいそうになる。しゃべらなくてもわかるネリーと大違い。 おかしな体験:第19章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
7 ウィンザーの街角でちんちんをしておねだりをしている犬を見て、ダロウビーの同じしぐさをしていた犬を思い出す。この犬は、市の立つ日の広場で、屋台の前でおねだりをしていた。その犬が車に轢かれたとの連絡を受け、警察へ。ひどい大怪我で、ダンスパーティをキャンセルしてシーグフリードと治療を始めた。手術は成功したが、貰い手が見つからない。せっかく手術をしたのに安楽死させられてしまう、と心配し始める。しかし、この犬を良く知っているお巡りさんがもらってくれ、その家族の良い仲間となったのだった。 おかしな体験:第20章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
愛犬物語:下巻第16章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
8 獣医を始めたころ、一番の恐怖は農林省だった。結核の家畜が出るたびにおびただしい書類を作成しなければならないのだが、それが大の苦手で、しょっちゅう間違えては農林省のハーコート監督官に怒られるからだった。しかしハーコート監督は厳しいだけでなく、結婚のお祝いに晴雨計を贈ってくれる人格者でもあった。ある日、結核の牛が見つかり、処分のためにマロックを呼ぶ。しかし彼は特級の牛と間違えて連れて行ってしまう。ヘリオットは大追跡を敢行し、かろうじて処分されるのに間に合ったのだった。 おかしな体験:第21章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
9 リッジ夫人を往診すると、自動車を盗まれたという。しかし彼女はどことなくうれしげで、「すばらしいことがおきた」と言う。10日前に彼女の愛犬、ケアン・テリアのジョシュアが車に轢かれた。レントゲンを撮ってみると、骨にも内臓にも異常はない。しかしそのときから、ジョシュアは吠えない犬になってしまった。しかし、泥棒が自動車を盗んでいったとき、ようやくジョシュアは、また吠えるようになり、それでリッジ婦人は喜んでいるのだった。 愛犬物語:下巻第17章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
10 飛行学校の訓練は食事がのどを通らなくなるほど厳しかった。あるとき突然、ウッダム中尉に単独飛行をするように命令された。訓練どおり離陸できたとき、あまりの興奮と勝利感に酔いしれてしまい、自分がどこを飛んでいるのか分からなくなってしまう。初めて教官の厳しく注意してくれた意味が分かった。必死に飛行場を見つけ出し、横滑りの技術を使い、何とか着陸成功。それを見ていたウッダム中尉、初めて褒めてくれ、コーヒーまで勧めてくれた。たった9時間の訓練で、50人中3番目の単独飛行に成功した。 おかしな体験:第22章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
11 飛行訓練をしながら、生まれたばかりのジミーのこと、ダロウビーのことを思い出す。ブラックバーン氏の最新鋭の農場へ行ったときのこと。農夫たちは早朝のミルクの出荷に忙しく、獣医や出産に見向きもしない。また、従来の農場と違って、牛には名前が付いておらず、番号だけ。手伝う人もなくたった一人で87番という牛の助産を行う。無事子牛が生まれたころ、ようやく農場は落ち着きを取り戻す。ブラックバーン氏もようやく出産に喜ぶ時間を取り戻し、生みたての卵をくれた。システムは変わっても人は変わらない。 未訳
12 ウィンザーのパブで犬を連れている人を見たとき、パブ・テリアのテオのことを思い出した。飼い主のポールはブロートンの役場に勤めており、物事を合理的に考えることができる男だった。あるとき、パブで彼がテオがやせてきたので見て欲しいと言う。診断してみると、ホジキン病だった。ポールを診療所に呼び、治療法のない難病であることを告げる。ポールはクールに安楽死に同意した。テオがなくなって数日後、ポールが自殺したことを知る。ポールはうつ病で、テオを亡くしたとき生きがいもなくしたのだった。 愛犬物語:下巻第18章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
13 ポールの死の直後、アンドリュー・バインが愛犬のフォックス・テリア、ディガーを診療所に連れてきた。徐々に目の見えなくなる色素角膜炎という難病にかかっており、やがて失明してしまう。アンドリューは絶望し、もう生きていけない!と言う。ポールの二の舞にしたくはない。ヘリオットは「ディガーの面倒を見るのは君だ、君がいなければディガーは生きていけない」と励ます。アンドリューはその言葉に目覚め、ディガーの世話をすることに新たな生きがいを見つけたる。2年後、楽しく散歩する彼らを見て、ヘリオットは喜びを感じるのだった。 愛犬物語:下巻第19章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
14 ウッダム中尉の教師としての素晴らしさで、ダロウビー時代の教師の真似事を思い出した。デヴィッドという獣医志望の少年に往診の同行訓練をしていたとき、最初のプードルは想像妊娠だった。次の犬も想像妊娠。フィッシャーさんの農場の豚まで想像妊娠。ロジャーズさんの農場で牛の助産に行くと、子宮の中はすでにからっぽ。いぶかしんでいると、隣の農場のセラーズさんが、「母牛が子牛を隠したんだ。」と教えてくれた。いつも子牛を引き離されていたので、今回は自分で育てたいと思ったのかもしれない。 おかしな体験:第23章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
15 クラモンド中尉との訓練飛行で地面すれすれに飛んだとき、地表の花の匂いを感じた。それがあるピクニックを思い出させた。妊娠中のヘレンは奇妙な食欲を見せた。オレンジや生のポリッジを偏愛するのだ。また、自宅の食堂で変な匂いがすると言い出した。妊娠時特有の症状。しょうがないので外食する。ところが、どのレストランに行っても「変な匂いがする」と言う。もはやダロウビーには一軒のレストランも残っていない。諦めて翌日郊外にピクニックに出かけた。「ここは変な匂いがしないわ」とヘレンは言うのだった。 未訳
16 ヘリオットは軍医の命令でクレデンヒルの病院に入院し、手術を受けさせられた。睾丸が肥大して切除を恐れている同僚に、その必要はないことを教えてやると、非常に喜ぶ。病人に勇気を与えることができてうれしかった。手術からの回復時に、世話をしている看護婦たちを見ていて、ジュディーというシープドッグを思い出す。彼女はとても性質の良い看護婦犬だった。「木の舌」の牛の治療をしているときも近寄ってきてその牛を見守っているのだった。ジュディーは農場のすべての動物の世話をしているのだった。 おかしな体験:第23章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
17 あるとき、スコッチテリアのハミッシュの耳介血腫の手術を行い、トリスタンは留守番を頼まれる。しかし彼はその晩、リディアとデートの約束があった。彼はリディアを家に呼べば一石二鳥と考え、彼女と診療所でいちゃついているときに、ヘリオットが帰宅。トリスタンはシーグフリードが帰宅したと誤解し、あわててリディアを窓から放り出してしまう。しかもそのどたばたの最中にハミッシュが逃亡。トリスタンは青くなる。ヘリオットが再度帰宅するとき、飼主の家の前でハミッシュを発見し、連れ帰る。トリスタンは安堵する。 おかしな体験:第25章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
愛犬物語:下巻第20章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
18 退院後、司令官に呼ばれ、操縦士になることはできないと告げられる。時間稼ぎのさびしい仕事をこなしながら、ヨークシャーの農夫たちとの楽しいおしゃべりを思い出した。ダグルビー農場で雑談をしていたとき、口蹄疫を発見した。ただちに農林省に報告し、周囲15マイルの防疫圏を設定。数日経っても発症が認められないので、すでに危険は過ぎ去ったかに見えたが、ベイリーさんの牛が水ぶくれができているとの電話。口蹄疫の恐怖に駆られながら往診してみると、彼の子供の種痘から移った単なる牛痘だった。 おかしな体験:第28章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
19 訓練は終わったのに、空軍はヘリオットを飛ばせてくれない。体に問題があるので、地上勤務に回したいとのこと。適性検査の結果は整備技師または気象予報士。以来適性検査を信じられなくなった。結局ウィークス伍長の部署へ。非生産的な単なる時間つぶしの仕事。洗濯したシャツや修理したブーツを無造作に積み上げ、依頼人に探して持っていかせ、名前をチェックするだけ。あまりの非能率に改善案を出すが、「余計なことを考えるな!」とにらまれる。休暇前に兵隊たちの引取りが集中して大騒ぎになる。 未訳
20 マンチェスターの街で乳母車を見たとき、乳母車にラーチャーを乗せていた男のことを思い出した。彼の名前はロディ・トラバース、乳母車の中に全財産を入れて、犬のジェイクとともに町から町へと放浪している男だった。彼はよく働き、どんな仕事でもこなせる才能を持っていた。ある晩、彼がジェイクを診療所に連れてくる。突然動かなくなると言う。調べてみると窒息で、のどに石が詰まっていた。のどを切開手術をし、無事石を取り除いた。抜糸後、ロディはジェイクとともにダロウビーを乳母車を押しながら去っていった。
おかしな体験:第27章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
犬物語:第5章 (集英社文庫、大熊栄訳)
21 イーストチャーチは除隊待ち兵隊の基地。その「待つ」という雰囲気で、ダゲットさんの雇い人、「何かを待っている」ネッド・フィンチを思い出した。彼はパブに通うのが好きで早起きができない。昼間は役に立たない男だった。ある日、隣のトレメインさんのお屋敷から卵を分けて欲しいと言われ、ダゲットさんはネッドを使いにやる。そこでネッドはトレメインさんのよく笑うコック、エルシーに一目ぼれしてしまい、毎日そこに通うようになる。そして一ヵ月後には結婚することになった。ネッドの顔にはもう「待ち」はなかった。 おかしな体験:第29章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
22 イーストチャーチ基地の兵隊の群れの中で、孤独を感じていた。ポッツさんもそんな気持ちだったのだろうと思った。川岸をサムと散歩しているときに、犬のニップを連れた彼によく出会った。彼は隠居した農夫で、そのあたりを散歩することの他にはやることもなく、いつも寂しそうだった。ポッツさんが亡くなってしばらくしたとき、彼の犬ニップが家の外で寂しそうにしているのを見つけた。未亡人によれば、彼女はリューマチでニップを散歩に連れて行けないと言う。ヘリオットはサムと一緒にニップも散歩に連れて行くことにした。 おかしな体験:第26章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
23 イーストチャーチである猫のことを思い出す。その猫は重症を負って診療所に連れて来られた。トリスタンと二人で大手術を敢行し、一命をとりとめる。ヘレンの献身的な看護で、美しい雄猫になり、オスカーと名づけられる。ある日、オスカーが突然失踪する。しかし彼は婦人協会の会合に行っていたのだ。オスカーは人の集まるところにはどこにでも顔を出す社交的な猫となった。ある日、セス・ギボンズという男が尋ねてくる。オスカーは彼の猫、タイガーだった。ヘリオット夫妻は彼にオスカーを返してあげることにした。 おかしな体験:第30章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)
猫物語:第2章 (集英社文庫、大熊栄訳)
24 ヘリオットはいよいよ空軍を除隊になった。空軍の制服を着て、イーストチャーチからダロウビーへの長い道のりを帰る。ダロウビーに近づくにつれ、まるで戦争などなかったかのようなのどかな風景が広がる。ダロウビーに到着すると、まるで昨日会ったような挨拶に出くわす。戦争に出かけたときもスーツケース一つだけだったが、今帰ってくるときも同じだった。でも大きな違いは、ヘレンとジミーがいること。それだけですべてが違ってしまう。彼らの待つヘレンの実家に向かって、ヘリオットは歩き出していった。 おかしな体験:第31章 (集英社文庫、池澤夏樹訳)