James Herriot - Omnibus Books



ALL CREATURES GREAT AND SMALL (1972)

オリジナル作品集のIF ONLY THEY COULD TALK とIT SHOULDN'T HAPPEN TO A VETの2冊をまとめ、さらにLET SLEEPING VETS LIEからの3章を足した合本で、アメリカで出版されました。

ヘリオット先生がダロウビーの町にやってきて、スケルデールハウスでシーグフリードやトリスタンと楽しい独身時代を過ごし、ヘレンと結婚するまでの時期のエピソードが集められています。

この合本のアイデアは、1970年にロンドンにやってきたトム・マコーマック氏によって考え出されたものです。
当時、ニューヨークのセント・マーチンズ・プレスの重役だったマコーマック氏は、ロンドンに「お金になりそうな本」を探しに来ていたのだそうです。当時のセント・マーチンズ・プレスの経営は風前の灯で、もしヒット作に恵まれなければ倒産の憂き目に会うところまでいっていたのだそうです。

マコーマック氏はロンドンでデヴィッド・ハイアム・アソシエイツのデヴィッド・ボルト氏に会い、IF ONLY THEY COULD TALKを手渡されます。しかし、彼はその本をロンドンから帰ってから長い間読まずにベッドサイドに積み重ねていただけでした。

この本の値打ちを発見したのは、マコーマック氏の奥さん、サンドラさんです。
ある日彼女は、ベッドサイドに積み重ねてあったこの本を手に取り読み始め、たちまちのうちにとりこになってしまいました。そして、夫に向かって「この本を読まなきゃだめよ!そしてすぐに出版して頂戴!さもなきゃ、ぶっ殺すわよ、このおたんこなす!」と言ったそうです。マコーマック氏は奥方の剣幕にびっくりして早速読み始めたのですが、読み進むにつれて「この本こそ、セント・マーチンズ・プレスを救う本だ!」と確信するにいたったのでした。

しかしながら、分厚い本を好むアメリカの読者にとっては、IF ONLY THEY COULD TALKはあまりに短い、とマコーマック氏は考えました。さっそくマコーマック氏はヘリオット先生のニューヨークでのエージェントにコンタクトをしてみると、ちょうど第2作目のIT SHOULDN'T HAPPEN TO A VETが完成したとのニュース。彼は早速この2冊を1冊の分厚い合本にして刊行することを考えたのでした。

また、マコーマック氏はエンディングについても物足りないものを感じていました。
一作目も二作目も淡々としたエンディングだったので、アメリカ人には食い足りないと思ったのです。マコーマック氏は早速アルフ・ワイトにコンタクトし、もう少しドラマティックなフィナーレを追加してもらえないか、と依頼したのです。

アルフもマコーマック氏の提案に同意し、ヘリオット先生とヘレンの結婚に関する最後の3章を書き加えたました。
その結果は素晴らしいもので、マコーマック氏によれば「(映画の)サウンド・オブ・ミュージックを思わせるような輝かしいエンディング」となったのです。(なお、英国版では、この追加の3章は3作目の"LET SLEEPING VETS LIE"に収録されています。)

また、マコーマック氏は英国で発行されたときの本のタイトルにも満足していなかったので、合本にするにあたり違うタイトルをつけたいと思っていました。

たまたまアルフの娘、ロージーが「ILL CREATURES GREAT AND SMALL(病気のすべての生き物たち)はどうかしら?」と提案したとき、マコーマック氏たちも 「ALL CREATURES GREAT AND SMALL(大小すべての生き物たち)というタイトルを考えていたのだそうです。アルフはロージーのアイデアを採用したかったのですが、結局後者がこの合本のタイトルとなりました。

ちなみにこのタイトルは19世紀のアイルランドの詩人、セシル・フランシス・アレグザンダーによる詩からとられております。
その歌詞は"All things bright and beautiful, All creatures great and small, All Things wise and wonderful, The Lords God made them all"となっているのですが、その後のヘリオット先生の本のタイトルもここからとられました。

この詩の本来の題名は、"A Rich Man And His Castle"だったそうですが、ヘリオット先生の本の知名度により、最近ではもっぱら"All Things Bright And Beautiful"という名前で呼ばれることが多くなってしまいました。また、この詩はメロディをつけられて英国国教会の聖歌第573番として取り上げらているそうです。

この合本は1972年11月初旬に発売され、11月12日のシカゴ・トリビューンの日曜版書評欄のアルフレッド・エイムズの評価によって、その人気に火がつきました。12月14日にはニューヨーク・タイムズのアナトール・ブロヤードの非常に好意的な書評も登場し、年が明けて1973年1月にはタイム・マガジン誌やニューヨーク・タイムズ誌のベストセラーリストに名を連ねたのです。

ハードカバーの発行から数ヵ月後には、バンタムからペーパーバックも登場し、リーダーズ・ダイジェストからも要約版が出版されました。いまや、ヘリオット先生の人気は決定的なものになり、1973年はアルフ・ワイトとトム・マコーマックにとって、素晴らしい年になったのでした。

邦訳は「ヘリオット先生奮戦記(ハヤカワ文庫、大橋吉之輔訳)で、一編の抜けもなく、"ALL CREATURES GREAT AND SMALL"のすべてのエピソードが翻訳されています。



ALL THINGS BRIGHT AND BEAUTIFUL (1974)

オリジナル作品集のLET SLEEPING VETS LIE(ALL CREATURES GREAT AND SMALLに収録された3編を除く)とVET IN HARNESSの2 冊をまとめ、合本にしたものです。

タイトルは、最初のオムニバス"ALL CREATURES GREAT AND SMALL"同様、セシル・フランシス・アレグザンダーの聖歌からとられており、「すべての輝ける美しきもの」の意味です。

アメリカのセント・マーチンズ・プレスから1974年の9月に出版されました。ヘレンとの新婚生活から英国空軍に参加するまでのエピソードが集められています。

また、このALL THINGS BRIGHT AND BEAUTIFULの半分ほどのエピソードを邦訳したものが「ヘリオット先生の動物家族(ちくま文庫、1978年、中川志郎訳)」です。
訳者の中川志郎さんは、上野動物園の園長さんだった方で、NHKのプロジェクトXの「中国からパンダが贈られた話」に登場されていました。

ALL THINGS BRIGHT AND BEAUTIFULにしても、それの邦訳版「ヘリオット先生の動物家族」にしても、オリジナルのLET SLEEPING VETS LIE、VET IN HARNESSからいくつか抜けている章があります。また、その抜けている章の中には、他のオムニバスで紹介されているものもあります。ただし、オムニバスに収録されるときには、オリジナルからかなりディテイルが変更されてしまうこともあるようです。




ALL THINGS WISE AND WONDERFUL (1977) 

オリジナル作品集VETS MIGHT FLYとVET IN A SPINの2冊をまとめ合本にしたものです。

例によってタイトルはセシル・フランシス・アレグザンダーの聖歌から由来しており、「すべての賢く驚くべきもの」の意味です。

英国空軍に参加し、飛行訓練を受け、除隊になるまでのエピソードが集められています。と言っても、イントロは確かに英国空軍時代のエピソードで始まるのですが、必ずダロウビー時代の思い出につながってしまいます。「軍記もの」ではまったくありません。

このうちの半分ほどのエピソードが、邦訳版「ヘリオット先生の不思議な体験(集英社文庫、池澤夏樹訳)」に収録されています。




THE BEST OF JAMES HERR IOT (1982) 

とても美しい本です。アメリカのセント・マーチンズ・プレスで企画出版されたヘリオット先生のベスト版です。

最初に出版されたのは1982年ですから、当然ながら1992年に発表されたEVERY LIVING THINGの作品はひとつも収録されていませんでした。
しかし、一番最近のエディションを手に入れてチェックしてみたら、この最終作品からも収録されていました。

ヘリオット先生の各エピソードの理解を深めるために、昔の新聞や雑誌の切り抜き写真などが豊富に掲載されています。
またヨークシャーの農夫の生活や古い獣医の治療器具なども、アンティックな線画で紹介されており、とても雰囲気が良いです。

また、写真集JAMES HERRIOT'S YORKSHIREのように、デリー・ブラッブスのすばらしい写真が何ページにもわたって収録されています。ヨークシャーのデイルズ、ムーアズ、魅力的な田舎町、お城や修道院の廃墟、田舎のパブの数々、農家の数々、農村の手工品、伝統的な行事などなどが紹介されています。

また、鳥や花、樹木の図鑑も付属しており、ヘリオット先生の世界を楽しむにはこれ以上の本はないかもしれません。




JAMES HERRIOT'S DOG STORIES (1986)

犬の話を集めたオムニバスです。

邦訳は、ムツゴロウ先生こと畑正憲さんとジェルミ・エンジェルさんによって「ドクター・ヘリオットの愛犬物語(上・下)」として、集英社から刊行されています。ヨークシャー方言が北海道方言で翻訳されており、会話の部分がとてもよい雰囲気です。

また序文にヘリオット先生のスコットランド獣医学校時代のエピソードが紹介されており、とても興味深いです。それによれば、1930年代の獣医の優先順位は、「馬、牛、羊、豚、犬」の順番だったそうで、猫に関しては触れられさえしなかったそうです。





JAMES HERRIOT'S CAT STORIES (1994)

猫の話を集めたオムニバスです。

邦訳は大熊栄さんによって、集英社文庫より「ドクター・ヘリオットの猫物語」として刊行されています。

ヘリオット先生の猫の話は、犬の話に比べると少ないようで、ここに収録されている10のエピソードはその代表的なものです。





JAMES HERRIOT'S FAVOURITE DOG STORIES (1995)

犬の話を集めたオムニバスです。

邦訳は大熊栄さんによって、集英社文庫より「ドクター・ヘリオットの犬物語」として刊行されています。
10編のエピソードが入っておりますが、そのうちの6編は上記の「ドクター・ヘリオットの愛犬物語」と重複しています。他の4編はオリジナル作品集からの抜粋です。





JAMES HERRIOT'S YORKSHIRE STORIES (1997)

ヘリオット先生の死後に出版された、最後のオムニバスです。

英国とアメリカでそれぞれ同じ内容で発行されましたが、タイトルが微妙に違います。英国で発刊されたものがこのJAMES HERRIOT'S YORKSHIRE STORIESです。レスリー・ホームズの詩情あふれる美しい挿絵で飾られています。

邦訳は、「ドクターヘリオットの動物物語(集英社文庫、大熊栄訳)です。






JAMES HERRIOT'S ANIMAL STORIES (1997)

こちらがアメリカで発刊されたHERRIOT'S ANIMAL STORIESです。

タイトルも違うし、カヴァーイラストも違うのですが、内容やレスリー・ホームズの文中イラストは上記の英国バージョンと同じです。でも、個人的には、やはり英国版のほうが好きですね。

邦訳の「ドクターヘリオットの動物物語(集英社文庫、大熊栄訳)」は、このアメリカ版のタイトルを採用していました。やはり日本では、ヨークシャーの人気が、ぱっとしないからなのでしょう。





JAMES HERRIOT'S YORKSHIRE REVISITED (1999)

この本はヘリオット先生の死後に発刊されました。

献辞はヨークシャーをこよなく愛したジェームズ・ヘリオットに捧げられており、ヘリオット先生の追悼本と言えそうです。ヘリオット先生の息子であるジム・ワイトが序文を書いているのですが、この序文がとても素敵です。

内容は、ヘリオット先生のベストセラー、JAMES HERRIOT'S YORKSHIREを思わせる写真集となっています。

テキストは、ヘリオット先生のエピソードからの抜粋で、そのエピソードにふさわしいデリー・ブラッブスの写真がつけられているという形になっています。

ヘリオット先生のエピソードには、現実の地名がほとんど出てこないので、「レインズ修道院は、実際にはRievaulx Abbeyだろうか、それともJervaulx Abbeyだろうか?」とか想像する部分が多いのですが、この本のテキストと写真は、実際の場所を暗示するような構成になっております。