LET SLEEPING VETS LIE (1973, Michael Joseph Ltd.)


邦訳版は、アメリカ・エディションのALL CREATURES GREAT AND SMALLに基づいているので、早い時期にヘリオット先生は結婚してしまうのですが、UK版では3作目のこの作品のエンディングまで結婚しません。

スケルデールハウスでの独身3人衆の楽しい生活の毎日の中に、ヘレンとのラブロマンスがちりばめられ、じらしにじらして、最後に結婚にいたるという構成になっているのですが、ALL CREATURES GREAT AND SMALLより、ラブドラマとしてよりドラマティックな構成になっていると思います。

「ダロウビーの農業ショーに、ヘレンが金髪のリチャード・エドマンドソンと一緒に現れるのを見て、やるせない気分になる。しかし、教会でのスピーチの応援をしてくれるヘレンを知って、まだ望みはあると思い、いよいよクライマックスのダンスパーティの夜へ。スージーのお産に行くのにヘレンを誘うと意外にも一緒についてきてくれた。そして、スケルデールハウスでのキスへ。シーグフリードにけしかけられ、ヘレンの父親に結婚の申し込みをする・・・・・。」

うーん、どう考えてもこの流れのほうが自然だし、クライマックスへの期待感も高まるし、感動も大きいですね。

下記にLET SLEEPING VETS LIEの各章の概要をご紹介しましょう。なお、下記の内容は、1974年にPan Booksでペーパーバック化された際のエディションに基づいております。

内容 邦訳
1 マリガンさんの巨大犬クランシー。シーグフリードによれば、エアデールテリアとロバの雑種。でかくて物騒な犬なので、ヘリオット先生は十分に診察できず、シーグフリードに怒られる。しかし、シーグフリードもクランシーを一目見るなり、「こりゃいかん」と診察室のドアを閉めて「回れ右」をしてしまう。たった3秒の診察。 動物家族:第4章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
2 みなしご羊ハーバート。生みの親の母羊に見捨てられる。たまたまある母羊が死産してしまう。その母羊は気力も体力も使い果たしてしまい、死ぬしかない運命。その母羊にハーバートを与えると、面倒を見る子羊が現れたため、母羊は生きがいを見出し、ハーバートも母羊も命を救われる。 動物家族:第3章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
動物物語:第1章 (集英社文庫、大熊栄訳)
3 独学農夫ピッカースギル。学名、病名を間違えて覚える「知ったかぶり」の農夫。乳腺炎(Mastitis)をMasticsという。しょっちゅう乳腺炎になるのはピッカースギルさんの絞り方が悪いのだが、なかなか彼に引退しろといいがたい。彼の腰が悪くなったとき、引退することをようやく決意し、それとともに彼の牛の乳腺炎も発生しなくなった。 動物家族:第5章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
4 シーグフリード、ジェームスとトリスタンに「農場に忘れ物が多い。医院経営が危うくなるから注意しろ!」と訓示をたれる。ケンドールさんの農場に行くと、シーグフリードのかつての「忘れ物の数々」を暴露されてしまう。シーグフリード、その農場で牛の腫瘍切除で神業を見せるも、またしても農場に大事なピンセットを忘れてきてしまう。 動物家族:第6章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
5 ヘレンにヘストン農場でのお茶会に招待される。彼女のお父さん、オルダーソンさんと話がなかなかかみ合わない。たまたま牛が病気になるが、ヘリオット先生が注射をした途端に死んでしまう。よいところを見せるチャンスはなかなかまわってこない。 動物家族:第7章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
6 クランプさんは、各種の自家製果実酒を作っている。ヘリオット先生は試飲しているうちにへべれけになる。そのとき、バンフォードさんの農場に往診を頼まれる。酔っていないつもりなのに、体は言うことを聞かない。苦労しながらの牛の助産。翌朝、シーグフリードから、バンフォード一家は禁酒のメソジスト教徒であると知らされる。 動物家族:第8章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
7 獣医気取りのドノバン夫人、愛犬を交通事故で亡くす。そんなとき、ある家で虐待されていたゴールデン・レトリーバーが発見される。その犬、ロイは餓死寸前だった。ヘリオット先生は動物愛護教会の視察官ハリデー氏に、ロイをドノバン夫人に任せるよう嘆願する。ドノバン夫人は、献身的にロイの世話をして、大変身させる。 動物家族:第9章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
犬物語:第7章 (集英社文庫、大熊栄訳)
愛犬物語:上巻第10章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
8 シーグフリードにダロウビー・ショー(共進会)の獣医とペットの審査員をやってくれと頼まれる。ショーで、ヘレンを見かけるが、金髪のリチャード・エドマンドソンと一緒だった。ショーでの事件。角の取れてしまった牛の治療。ジステンパーのフォックステリアを不合格にする。ポニーの計量、獣医をごまかそうとする出品者たち。 動物家族:第10章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
愛犬物語:上巻第11章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
9 第8章ダロウビー・ショーの続き。ペットの審査は難しい。公正にやったつもりなのに、一位にした金魚は、「飼い主が大地主の子供だから」手心を加えた、と言われてしまう。計量で落とされたポニーの飼い主やフォックステリアの飼い主、いまだに文句を言う。そんなどたばたのうちに、ヘレンはエドマンドソンとダイムラーで帰っていった。 動物家族:第11章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
愛犬物語:上巻第11章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
10 ハリー・サムナーの種牛、ニュートン・モンモランシー6世、通称モンティ。毛の球が胃にたまってしまい、開腹手術を行う。術後しばらくはモンティと仲良しだったが、モンティが大きくなるにつれ、その友情は失われる。彼が二歳になったときに、ブルセラ病の血液検査をしようとするも、もはや友情どころの騒ぎではなく、死にそうな目にあう。 動物家族:第16章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
11 ヨークシャー・デイルズのスカーバーン在住の獣医、ユアン・ロス。彼のツベルクリンテストを手伝ってやって欲しいとシーグフリードに頼まれる。ユアン・ロスは、お金や出世に興味がなく、酒にまつわる伝説の多い獣医。しかし、実際にユアンの診療に付き合ってみて、彼の古めかしいが、用意周到で理にかなった技術に感銘を受ける。 未訳
12 レインズ修道院の廃墟近くで修道僧の幽霊の目撃が相次ぐ。実はトリスタンのいたずらだった。ある夜、警官のクロード・ブレンキロンとレインズのそばを通ったときに、幽霊に出くわす。クロードは、幽霊を追い掛け回す。数時間後、トリスタンが震えながらスケルデールハウスに帰ってきた。臭くて寒い下水管に隠れていたのだった。 動物家族:第14章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
13 真夜中にユアン・ロスから電話。牛の助産をしているのだが、ヘリオット先生が自慢していたエンブリオトームという道具を貸してくれという。しょうがないので、はるか遠くのデイルズへ。手術が終わったとき、農夫は夜中の3時にもかかわらず快く夜食を出してくれる。ハムとたまごパイ。ユアンに対する農夫の対応にヘリオット先生は驚く。 未訳
14 ブレンキンソップ副司祭に、教会の集会で、100人ぐらいの聴衆を相手に獣医の仕事について話をしてもらえないか、と頼まれる。いったん断るが、ヘレンもその集会に参加すると聞いて、ヘリオット先生は一生懸命スピーチの練習をする。しかし、その集会に集まったのはたったの12人。子供ばかり。熱心に聴いてくれたのはヘレンだけ。 未訳
15 ヘリオット先生が馬の傷を縫うのにてこずっていると、馬に熟練している農夫、クリフ・タイヤマンがやってきて、その馬に「おとなしくしろ!」と一喝する。すると不思議に馬は言うことを聞き、先生はたやすく仕事をすることができるのだった。彼は馬と交流できた農夫だった。しかし時代は移り、農耕馬は次第に姿を消し、トラクターの時代へ。 未訳
16 動物にはクリスマスの朝も関係なく、往診に借り出される。始めは「ありがとう」「さよなら」も言わないいやな畜主。次にカービーさんの山羊の往診、なんと夏用のパンツをのどに詰まらせていた。治療後、聖歌を聞きながら、クリスマスのご馳走をいただく。クリスマスに帰ってくる子供たちの話。幸せな気分で家路へ。雪景色に見とれる 動物物語:第10章 (集英社文庫、大熊栄訳)
17 ユアン・ロスとともに牛の子宮脱の治療にスウェイトさんの農場を訪れると、おせっかいな無免許獣医のマーマデューク・スケルトンがすでに治療を始めていた。デュークは何時間かかってもなおすことができないでいた。スウェイトさんはユアンに代わってくれと頼む。ユアンは熟練の技で、薬も一切使わずに瞬く間に直してしまう。 未訳
18 ボンド夫人の家は、猫でいっぱい。変な名前の猫たち。ヘリオット先生は得意の「猫包み」の技で治療に当たる。ある日、トリスタンとともに凶暴で巨大な藍色の猫、ボリスの歯に挟まった骨を取り除くためにボンド夫人の家を訪れる。トリスタンは大騒ぎをするばかりで、ボリスを捕まえることができず、ボンド夫人の不興を買う。 動物家族:第17章 (ちくま文庫、中川志郎訳)
19 学生の実習生、カーモディ来る。いかにも育ちがよさそうな洒落た服装の高慢ちきな若者。しかも最新式の学問を身に着けており、スケルデールハウスの古臭い薬品棚を馬鹿にする。「診断が間違っている」と言われ、ヘリオット先生は気を悪くする。カーモディ、ある農場のゲートを開けている時に、突然犬に尻を噛み付かれ、大騒ぎ。 未訳
20 カーモディに診療をまかせる。汚物にまみれながら子豚に注射をし、いやがる馬の喉に無理やり薬を流し込み、巨大な雌豚からの採血、暴れ牛の腫瘍切除に取り組む。汚れ仕事をいとわず一生懸命な姿を見てカーモディを好きになった。20年後、高名な獣医学博士になったカーモディに出会う。彼はヘリオットをよく覚えていてくれた。 未訳
21 ダロウビーでのダンスパーティの最中に、犬の出産で呼び出されるヘリオット先生。ヘレンに一緒に行こうと誘うと、意外にも彼女はついて来てくれた。スケルデールハウスに医療道具を取りに行き、そこでヘレンとキス。その後雌犬スージーの出産に一緒に立会い、幸せな時間を過ごす。この犬はいわば愛の使者だった。 動物物語:第10章 (集英社文庫、大熊栄訳)
愛犬物語:上巻第12章 (集英社文庫、畑正憲/ジェルミ・エンジェル共訳)
22 ミドルズバラの工場に勤めていたフランク・メトカーフ、デイルズにやってきて農場経営を始める。独力で素晴らしい牛舎を建設し、近代的な搾乳施設をつくったが、恐ろしいことにブルセラ病が蔓延し始め、彼の牛のほとんどが流産してしまう。フランクは農場経営を諦めざるをえなくなり、傷心のままミドルズバラの工場へ戻って行く。 未訳
23 夜になるとヘストン農場に時々立ち寄って、ヘレンに会うことが習慣になってきた。しかし父親のオルダーソンさんとはまだなかなかうちとけることができない。ある晩、シーグフリードと話していると、突然彼は「早くヘレンと結婚するべきだ、何をぐずぐずしているんだ!」とたきつけられてしまう。ヘレンもそろそろ父親に話して欲しいという。 ヘリオット先生奮戦記: 第65章
24 オルダーソンさんの農場の牝牛、キャンディが産気づいたとの連絡を受け、ヘストン農場へ向かう。入浴時に使ったホール婦人のバスソルトの匂いをふんぷんとさせながら、なんとか無事に出産させる。そのとき、ついにオルダーソンさんにヘレンと結婚したいと告げる。彼とウィスキーを飲んで語り合う。順調に行きそうな予感。 ヘリオット先生奮戦記: 第66章
25 くず鉄商人のウォルト・バーネットは、獣医を馬鹿にしている金持ち。シーグフリードはいやな金持ちからは治療代をぼるという主義。ある日バーネットの馬の治療にでかけ、治療は無事終了。シーグフリードは彼の主義を貫くために、法外な10ポンドを請求し、まんまと満額の小切手をせしめるが、それをどこかに置き忘れてきてしまう。 未訳
26 結婚式まであと1週間というときに、ツベルクリンテストの依頼が来る。シーグフリードを見るに見かねて、ハネムーンとツベルクリンテストを同時に行うことにした。シーグフリードは結婚を機にヘリオットを診療所の共同経営者にしてくれた。素晴らしいデイルズ、麦束館での食事。アレンさんの農場で「奥さん」とヘレンが呼ばれるのを聞いて結婚したことを実感する。 ヘリオット先生奮戦記: 第67章