EVERY LIVING THING (1992, Michael Joseph Ltd.)


ヘリオット先生の8冊目の作品集であり、オリジナルとしては最後の作品集になります。

献辞はアルフ・ワイトの愛犬ボディと娘のロージーの愛犬ポリーに捧げられています。

前作のTHE LORD GOD MADE THEM ALL以来、11年ぶりの作品でした。
11年ものブランクがあいてしまったのは、登場人物のモデルとなった人々に対する気遣いだったようです。実際の話、シーグフリードのモデルとなったドナルド・シンクレアとの間は、告訴問題に発展しそうなほど気まずくなった時期もあったようです。

誰もがヘリオット先生はもう新作を書かないものと諦めていたのに、この新作の登場は望外の喜びでした。セシル・フランシス・アレグザンダーの聖歌のフレーズは使い切ってしまったので、このタイトルは旧約聖書からとられたとのことです。

前作では時間軸が交錯する不思議な構成でしたが、この作品集はそれ以前のヘリオット・サーガの持っていた落ち着きを取り戻した構成になっており、1950年代の「家庭人としてのヘリオット先生」の話が中心になっています。

また新登場人物として、アシスタント獣医のカラム・ブキャナンのユニークなキャラクターが光っています。
実際のカラム・ブキャナンはブライアン・ネトルトンといい、作品に出てくるのと同様、アナグマを連れて歩くユニークな獣医(邦訳ではあなぐま先生、原作ではt'vet wi't badger。ヨークシャー方言ですね。)だったようです。

作品中ではスコットランド系イングランド人として描かれていますが、実際にはジプシーの血の混じった神秘的な人物だったとのことです。現実のカラムも、より雄大な自然を求めてノバ・スコシアに行ってしまい、かの地で交通事故でなくなりました。(作品中では最後はニューギニアまで行ってしまったのですが、、、、)

また、この作品はヘリオット先生がワードプロセッサーを使って執筆した唯一の作品集とのことです。
これ以前の作品集は、サースクのヘリオット博物館(The World Of James Herriot)に展示されている、オリベッティのタイプライターで書かれたとのことです。

なお、邦訳は「生き物たちよ(集英社、大熊栄訳)」で、すべてのチャプターがもれなく翻訳されています。
内容 邦訳
1 ケトルウェル氏から、「荷馬に発疹ができた」との電話。往診してみると、立派なシャイアーが蕁麻疹で苦しんでいた。早速、新しい抗ヒスタミン剤を注射する。念のため、いつも使っている蕁麻疹用調合剤も注射する。しばらくすると、シャイアーがぐらぐら揺れ始め、ついには全身痙攣で倒れてしまう。ヘリオットは最悪の事態を覚悟したが、次の瞬間、シャイアーは何もなかったかのように立ち上がる。蕁麻疹もほとんど消えていた。ほっとして周りを見渡すと、デイルズはすでに春の息吹。獣医の仕事はきつく、はらはらすることが多いが、デイルズで獣医を出来ることの幸せは何物にも変えがたい喜びだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第1章 (集英社、大熊栄訳)
動物物語:第9章 (集英社文庫、大熊栄訳)
2 デイルズの春の兆しを満喫してダロウビーの診療所に戻ってくると、「ミセス・バートラムの犬が病気。往診するように」とシーグフリードが言う。早速フィッシュ&チップス屋の2階にあるバートラムさんの家を訪ねる。パピーは巨大で、触るのも恐ろしい凶悪犬。目に腫瘍が出来ていた。翌朝、パピーを診療所に連れてきてもらい、手術をすることになったが、なんせ近寄りがたい犬だけに、麻酔注射が打てない。極上の挽肉に麻酔を混ぜて食べさせようとするが、パピーは見向きもしない。パピーの好物はチップスだったことを思い出し、麻酔をチップスに差し込んで与えてみると、果たせるかな、パピーは食べ始め、無事麻酔をかけて手術が出来たのであった。それにしても、処方箋に「チップスに薬を差し込んで服用」と書いたのは初めてだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第2章 (集英社、大熊栄訳)
3 ジェフリー・ハットフィールドは、ダロウビーで一番流行っているお菓子屋さんだった。その堂々とした立居振る舞いで、たくさんのお客さんを魅了していた。また彼の飼い猫のアルフレッドも、飼い主に似た堂々とした猫で、いつも菓子屋のカウンターで愛想を振りまいていた。あるとき、アルフレッドが急に痩せ始める。ヘリオットが診察してみるが、どこにも悪いところはない。腫瘍を疑うが、レントゲンには何も写らない。ジェフは心配のあまり、痩せ衰え始め、その立居振る舞いにも精彩を欠き始める。ヘリオットはアルフレッドを試験開腹し、毛玉が消化器官に詰まっているのを発見。毛玉を取り除くとアルフレッドは急激に回復した。またジェフもいつも通りの魅力的な菓子屋に戻っていったのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第3章 (集英社、大熊栄訳)
猫物語:第1章 (集英社文庫、大熊栄訳)
4 シドロー家はいつも家畜を自分で治療しようとして失敗し、最後の段階でヘリオットを呼ぶ。大抵は何もしてやれずに患者は死んでしまう。それをシドロー夫人は「何の役にも立たないのにお金だけ盗りやがって!新車も買えていい身分だね!」と、なじるのだ。しかしそんないやな気分も、パンフリー夫人の家にトリッキ・ウーを診に行き、上等のシェリーを飲んで歓談していると胡散霧消してしまう。最近、ダロウビーに中華料理屋ができ、中国系の狆のトリッキとしては応援してやりたがり、毎日そのお店に食べに行ってあげたら、ずいぶんと流行るようになった。パンフリー夫人は別れ際に、大男だった亡夫の超上等なスーツをヘリオットにくれた。獣医の仕事の多様性に、私は神に感謝したくなるのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第4章 (集英社、大熊栄訳)
犬物語:第8章 (集英社文庫、大熊栄訳)
5 パンフリー夫人からもらったスーツはいかんせん大きすぎたので、へレンは仕立て屋のベンドロー氏に直しに出した。彼はその重い生地の素晴らしさに驚く。昼過ぎに、テッド・ニューカムから電話。彼の大切にしている牝牛、クローバーが難産。早速ヘリオットは駆けつける。脊髄麻酔を打ち、なんとか立派な牡牛の子供を取り上げるのに成功する。テッドとツベルクリン・ライセンスについて話す。彼はそのライセンスをもらえば、牛乳1ガロンあたり4ペンス収入が増えるという。彼は極貧生活の中、骨身を惜しまず働くが、ライセンスをもらうためにはまだいくつか条件を満たさなければならなかった。そのライセンス発給を行う牛乳委員会のメンバーだったヘリオットは、責任感に気が重くなるのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第5章 (集英社、大熊栄訳)
6 ベンドローさんに預けてあったスーツが直ってきた。ズボンのウェストは脇の下まであった。しかし上着を着ると、なんの問題なく素晴らしいスーツに見えた。牛乳委員会に出席するために、外出するが、素晴らしい生地のスーツのおかげで寒さは全く感じない。農業賞事務所はセントラルヒーティングで暑いぐらいだったので、分厚い生地のスーツを着ていると、暑さで気分が悪くなってきた。本日の議題の一つはテッド・ニューカムにツベルクリン・ライセンスを与えるかどうか。ヘリオットは彼の人柄、業績について一生懸命話し、全員からテッドにライセンスを発行する同意を取り付ける。素晴らしい布地のスーツで汗まみれになって話す姿が「献身的だ」と、評価されたのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第6章 (集英社、大熊栄訳)
7 ヘリオットの子供たち、ジミーとロージーは、父親の仕事を手伝うのが大好きだった。往診の際の薬品をそろえる手伝いから、農場を訪問する際のゲートの開け閉め、果ては往診の際の診断の手伝いまでしてくれる。獣医の仕事は厳しいし、綺麗な仕事ではないのに、子供たちは獣医になるのが夢だったのだ。あるとき、ジミーが学校から帰ってこず、大騒ぎになる。探してみると、ジミーはティム・サゲットの牛小屋で搾乳の練習をしていたのだった。ジミーが獣医になるのは当然のことだったが、女の子のロージーにはきつすぎると思って、半ば無理やり彼女を人間の医者にしてしまったが、それが正しいことだったか、今になって後悔する時もある。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第7章 (集英社、大熊栄訳)
8 貴族的で高圧的な態度で有名な獣医、ヒューゴー・モットラムは、シーグフリードとヘリオットが彼の患者を横取りすると行って難癖をつける。実際には患者の都合などのっぴきならない事情が重なってのことだったし、モットラムにはその都度連絡するのだが、彼はかたくなだった。あるとき、モットラムが旅行に行っている間に、彼の大事にしている馬が疝通を起こし、モットラムの弟子のラムズデンがヘリオットたちに助けを求めてきた。早速二人で駆けつけてみると、ひどい重態。朝までかかって献身的な治療を試み、なんとか治すことが出来た。後日、スケルデールハウスに素晴らしいシャンペンが届く。モットラムが詫びてきたのだ。彼はいつもの高圧的な態度を改め、自分の非を認めた。その上、二人を夕食に招待したのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第8章 (集英社、大熊栄訳)
9 1950年代の獣医は常にブルセラ症の感染にさらされていた。家畜に流産をもたらすだけでなく、農民や獣医もその感染で様々な症状に苦しんできた。ヘリオットもこれに感染し、時折発作を起こした。発作が起きると、高熱を発し、譫妄症状となり、やたらと幸せな気分になって歌まで歌ってしまう。子供たちはこの発作を楽しみにしていたようだった。発作が起きているときにやっかいなお客、フェザーストーン夫人がやってくる。彼女はそのプードル、ロロのちょっとしたしぐさを見て心配になってやってくるのだが、いつ診察しても異常はないのだった。発作が起きてハイになっているときだったので、おもしろおかしくフェザーストーン夫人の心配性をからかってしまった。発作がおさまって、大変なことをしてしまったと後悔したが、逆にフェザーストーン夫人は始めて自分のおろかさに気がつき、ヘリオットに感謝するのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第9章 (集英社、大熊栄訳)
10 スケルデールハウスの最初の正式な助手として、ジョン・クルックスがやってきた。獣医学校を卒業したばかりの彼が最初に向かったのは、口うるさいことで有名なサイクス少佐の狩猟馬の蹄葉炎だった。心配になったヘリオットは、サイクス少佐の家に駆けつける。しかし、ジョンは立派に処置しただけでなく、その率直で自信を持った態度で、やかまし屋のサイクス少佐と友達になってしまっていたのだった。いまやジョンが「若先生」と呼ばれるようになった。彼はシーグフリードの怪しげな治療法で死にそうになり、以後、かようないんちきくさい治療法を断固拒否する強い面も持っていた。口うるさい農民たちもジョンには惚れ込み、まさしく彼は「最も将来性のある青年」とみなされていったのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第10章 (集英社、大熊栄訳)
11 ジョン・クルックスは故郷ベヴァリーに住むヘザーという女性とつきあい始めた。やがて、彼は彼女と結婚すると言ってヘリオットに紹介した。あるとき、ヘザーが病気になったとの知らせ。ジョンは、車のワイパーも止めずに車から飛び出し、フィアンセの元に駆けつけていった。結婚したクルックス夫妻はしばらくシーグフリードの家に住んでいたが、やがてベヴァリーで開業することになり、ダロウビーを去っていった。30年後、ジョンはその才能を認められ、英国獣医師協会会長に選ばれた。彼は最初のボスを覚えていてくれ、ヘリオットに就任祝辞を頼んできたのだった。祝辞を終えて、壇上のそうそうたる顔ぶれを見上げたとき、そこで最も重要な人物が「ダロウビーの若先生」だと気づき、ヘリオットは誇らしい気分になったのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第11章 (集英社、大熊栄訳)
12 スケルデールハウスは古くて美しい家だったが、「女が長生きできない」家だった。あまりに大きすぎて掃除するにも時間がかかるし、冬は底冷えする家だった。ヘレンのために、もっとこじんまりとした暖かい家を手に入れてやりたかった。あるとき、ドライデンさんの猫、スーティの往診に行ったとき、彼女はその家を競売にかけるという。その家はこじんまりとして、理想的に見えた。ドローヴァーズ・アームズでの競売はヘリオットとブートランド老人の一騎打ちとなった。老人は息子のためにどうしてもこの家を手に入れたくて、どんどん値段は上がり続け、相場の2000ポンドを超えてしまう。結局3325ポンドでブートランド老人が競り落としたが、ヘリオットのせいで不当に値段が高くなったとして、憎まれてしまう。しかし、ドライデンさんはヘリオットのおかげで高く売れ、彼に感謝するのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第12章 (集英社、大熊栄訳)
13 ダウスン氏はヘリオットの熱烈な信奉者だった。彼の診た動物は、すべて彼のご宣託どおりの行動をするからだった。ヘリオットが「12時を30秒過ぎたら歩き出す」と言えば、本当にそうなったというし、「今日の午後2時半にポニーはこのショベル一杯の量の通じがありますよ」というと、その通りになったというのである。あるとき、ダウスンさんの子牛が頭突きをしてミルクの入ったバケツを突き飛ばしてしまう癖があるので、診てくれと言う。さすがに今回は期待に添えないと重いながらも、ビタミンBの注射をしてあげる。1ヵ月後にダウスン氏に会ったとき、ヘリオットはまたしても、彼の処方がぴったりはまってしまい、その注射以来、子牛はぴたりと頭突きをしなくなったことを知ったのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第13章 (集英社、大熊栄訳)
14 フォーセット老人が、愛猫のフリスクが死んだので処理を頼んできた。診察してみると、まだ息がある。気休めに気付け薬を注射したが、期待はしていなかった。翌日、再びフォーセット老人がダンボール箱を持って来院した。驚くべし、中からフリスクが飛び出してきた。まるで奇跡だった。このあとも数回、フリスクは同様の危篤状態に陥ったが、その都度、ヘリオットの注射で生き返るのだが、ヘリオットにはなぜフリスクがそんな状態になるのか、見当もつかなかった。ある日、フォーセット老人の家を訪ねた時に、看護婦が家から出てくるのに出会う。彼女はフォーセット老人は末期癌で、ヘロインを処方しているという。それでヘリオットは理解した。フリスクは、老人が薬を飲んだ皿に残ったヘロインを舐めてしまい、それで危篤になるのだった。フォーセット老人が亡くなる前の日に彼に会った。彼は愛するフリスクの名前を呼びながら眠り込み、それが最後の言葉になった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第14章 (集英社、大熊栄訳)
猫物語:第8章 (集英社文庫、大熊栄訳)
15 私たちは新しいアシスタントを雇うことになった。ダロウビーの駅にその新人を迎えに行くと、口髭を生やした背の高い若者が列車から降りてきた。それがカラム・ブキャナンだった。彼は大きなラーチャー犬を連れ、さらにあなぐまを肩に乗せているのだった!医院に彼を連れて行くと、シーグフリードもあなぐまを見て大いに驚く。彼は自然愛好家だが、変人。いつ食事をしたのか、何を食べているのかを、ろくに覚えていないような浮世離れしたところがあった。そのとき、ホースリーさんから電話。未経産牛の難しい出産。カラムをやり、「産ませるまで帰ってくるな」と、彼の実力を試してみることにした。とは言うものの、二人ともカラムが心配でならない。どうなったか見に行こうとした矢先にカラムは医院に戻ってきた。なんと帝王切開で無事出産させたという。驚いた二人は、ホースリーさんのところに出かけてみる。カラムの手術は実に見事だった。シーグフリードはそれに感心ながらも、カラムの変人ぶりがやがて問題を起こすのでは、と心配しているのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第15章 (集英社、大熊栄訳)
16 ミセス・コーツの犬、ウルフィは、人に間違った印象を与える犬だった。尻尾を振っているのに、歯をむき出してうなっているのである。喜んでいると思って手を出すと、噛まれそうになってしまった。次に、コーツさんの近くのハート夫妻の猫を診に行く。彼らは二人組みの泥棒に入られてお金を撮られたので治療費が払えないという。数日後、コーツさんを訪問すると、彼女もその泥棒に入られたという。しかし、彼らはウルフィにお尻から血が出るほど噛み付かれ、たちまちのうちに退散した、とのことだった。泥棒たちもおそらくウルフィの尻尾を振る姿にだまされたのだろう。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第16章 (集英社、大熊栄訳)
17 ヒックソン老人の馬の蹄が感染症にかかった。この馬は足癖が悪くて、治療をしようとすると、蹴飛ばされてしまい命がけである。鍛冶屋のデニー・ボイントンに助けを借りることにした。彼は馬の扱いに慣れており、どんな荒くれ馬の蹄鉄でもあっという間に付け替えてしまうたくましい若者だった。彼と一緒にヒックソンさんの農場に到着した途端、デニーは「ここには猛犬は?」と真剣に尋ねる。犬はいないと聞いて、デニーは安心して車を降り、ヒックソンさんの荒くれ馬の蹄の膿を瞬く間に出してしまったのだった。しかし、次の農場に到着し、車を降りる前には、またデニーは「ここには猛犬は?」と聞くのだった。彼にとっては荒くれ馬のほうが猛犬より扱いやすかったのだ。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第17章 (集英社、大熊栄訳)
18 ドローヴァーズ・アームズにカラムを始めて連れて行ったとき、彼のあなぐまは見て大騒ぎを引き起こした。ヘリオットの家族にカラムを紹介したときもそうだった。カラムが行くところはどこでも大興奮を巻き起こすのだった。カラムはどんな動物ともうまくやることの出来る得がたい才能があり、ヘリオット家のダイナも初対面で彼になついてしまった。また、彼はどんな楽器でも演奏できた。ピアノも弾けるし、ハーモニカも吹けた。さらに、ヘリオットが古物商で買ってきたコンセルティーナでさえ、見事なシェナンドアの演奏を聞かせてくれ、子供たちは大喜びだった。そんな最中、あなぐまのマリリンがいなくなる。探していると、暖炉の中からマリリンは飛び出してきて大暴れ。今後、カラムがいるところでは、「霊感に打たれた高みから混沌への突然の墜落」は、日常茶飯事になるに違いないと、ヘリオットは思うのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第18章 (集英社、大熊栄訳)
19 仕立て屋のベンドロー氏はおしゃべりが好きで、手が動いているよりも口が動いているほうが多い。しかも相手の話を聞かずに一方的にしゃばるのだから始末が悪い。しゃべってばかりいるので、肝心の仕立物がなかなか期日通りに仕上がらない。ヘリオットのワードローブは限られたものので、彼の仕事の遅さが気にかかることもよくあった。あるとき、ベンドロー氏の巨大な愛犬、ブランコに腫瘍ができて、元気がなくなる。早速手術を実施した。しばらくしてベンドロー氏を訪問すると、ちょうど町の嫌われ者、ゴバー・ニューハウスが「俺のジャケットをまだできないのか!」と怒鳴り込んできた。その途端、ブランコは恐ろしい声でゴバーに吠え掛かり、ゴバーは退散せざるを得なくなってしまった。ブランコは完全に回復したことを知り、私はいい気分だった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第19章 (集英社、大熊栄訳)
20 当時、ヨークシャーで家畜の助産をするとき、獣医に差し出されるのは、ちっぽけな石鹸と汚いタオル、というのが当たり前だった。タオルどころか、粗麻布袋の切れ端の場合もあり、羊の出産のシーズンになると、腕があかぎれになってしまうのだった。しかし、ビレル農場では全く違っていた。ビレル婆さんは、いつも真っ白な清潔なタオルと新品のラヴェンダー石鹸を用意してくれるのだった。ある日、新聞にビレル婆さんの訃報が載っているのを見つけ、ヘリオットは大いに悲しむ。次にビレル農場に出かけたとき、もはや婆さんを見ることができないと思うと辛かった。しかし、婆さんはいないが、孫娘のルーシーが清潔なタオルと新品のラヴェンダー石鹸を持ってきてくれた。ビレル婆さんは、孫娘にどうすればよいか、教えてくれてあったのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第20章 (集英社、大熊栄訳)
21 ドローヴァーズ・アームズでのドライデン邸の競りに負けてからも、私はヘレンのためにずっと新しい家を買うことを考えていた。そんなとき、また魅力的な一軒家が競売にかけられることになり、出かけてみた。しかし、競りは予算の3000ポンドをはるかに超えてしまい、またしても新しい家を手に入れることは出来なかった。その後、あるパーティで建築家のモリソン夫妻に出会う。彼らは「土地を買って家を新築したらどうか」と言われ、その手があったことに気がつく。早速土地を探し、間口の狭い土地を購入し、「こじんまりとしていて、キッチンと食堂をつなぐハッチのある家」の設計を頼んだ。途中、大風が吹いてレンガ壁が崩れたりしたこともあったが、理想の家が出来上がったのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第21章 (集英社、大熊栄訳)
22 羊の帝王切開や子宮環手術が当たり前になり、医院の手術室は盛況となる。ヘリオットは緊急を要する手術はいとわないが、健康な動物の体にメスを入れるのがいやで、猫の避妊手術などはずっとグランビル・ベネットに回してばかりいたが、カラムはそろそろ自分たちで始めるべき時代だという。手始めにグランビル行きの予定だった3匹の子猫の避妊手術のために、カラムはメスを握る。「簡単な鍵穴式手術」のはずだったが、カラムがピンセットでつまみ出したのは子宮ではない他の内蔵。慌てるカラムに後を託し、ヘリオットは往診へ。戻ってくると、無事に避妊手術は終わっていた。ヘリオットが出て行ってすぐに子宮は見つかったと言う。その後も、何回かカラムの避妊手術につきあったが、ヘリオットが見ているときに限って、妙な内蔵をつまみ出してしまう。ついにカラムは「先生が邪悪な目で見るから失敗するんです。そうだ、この内蔵はヘリオット管って名づけよう!」と言うのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第22章 (集英社、大熊栄訳)
23 ローワン・ガースの新居に移って最初の朝、ヘリオットは紅茶を飲みながら幸せを味わっていた。すべてのものが手の届くところにあり、アガ・クッカーからの熱がゆきわたり、どこも暖かだった。子供たちはいたずらをしかけ、ラディオグラムからはプレスリーが流れる。犬がいて、みんな若くて、楽しい朝だった。今でもプレスリーを聞くとこの楽しい時代を思い出してしまう。しかし、スケルデール・ハウスを出るときには想像以上に大きな寂しさを味わったのも事実だった。独身時代の男3人の愉快な生活、ヘレンとの新婚時代、、すべての部屋にたくさんの想い出が詰まっていたからだった。そこを今でも診療所として使えるのは、本当に幸せだと思う。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第23章 (集英社、大熊栄訳)
24 「あなぐま先生をお願いします。」という電話が多くなってきた。これはカラムが農民たちに受け入れられた、と言う証拠で、うれしかった。確かにカラムは有能な獣医だった。しかし、彼はいくつかの点で、非常に変人でもあった。自然と触れ合う時間が欲しいから、勤務時間を早朝から昼過ぎにしてくれと言ったり、あなぐまのエサにするために腐りかけた牛の胃壁を煮込んで顰蹙を買ったりしていた。手を借りたいときに限って居所が分からないこともよくあったので、ヘリオットは昼時には必ず電話を入れるように頼む。それ以来、昼時になるとカラムは律儀に電話をかけてきて、「食事の許可を、閣下!」と言うようになり、これが最後まで続いたのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第24章 (集英社、大熊栄訳)
25 ヘリオットは生活に役に立たないものを買ってしまい、ヘレンの顰蹙を買うことがよくあった。ガレージセールで入手したコンセルティーナや世界地理全24巻などである。ローワン・ガースに移った時も、テニスコートを作りたくて、魚網を売りにきた漁師から、穴だらけのとんでもないネットを買ったこともあるし、通販で役に立たない園芸用品を買ったこともあった。あるとき、ヘレンが東洋風の絨毯を買いたいと言う。インドから帰ったセールスマンが持ち込んだもので、20ポンドだと言う。ヘリオットがチェックしてみると、あまり良い品ではないので断らざるを得なかった。ヘレンはいつもはずっと分別があるのだが、この件は彼女の唯一の常軌逸脱行為だった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第25章 (集英社、大熊栄訳)
26 アーニー・ブレイスウェイト老人はあらゆるスポーツに精通しており、それぞれの分野の一流選手と友達づきあいをしているようだった。彼の愛犬、ボーダー・コリーのバウンサーにも「誰々の真似をしろ!」と、芸を仕込んでいたぐらいだった。しかし、町の若者の中には、アーニーの話は嘘と思って、からかう者が多かった。あるとき、バウンサーが糖尿病になる。ヘリオットの治療で快癒する。バウンサーは再び著名スポーツマンの真似を仕込まれるのだった。あるとき、ダロウビーでホッケーの大きな試合があった。その出場選手は日頃アーニーが知り間と言っていた一流選手ばかり。人々はアーニーの化けの皮がはがれると思っていたようだが、本当にその選手たちはアーニーの昔からの友人だったのだ。ヘリオットはそれを知り、ほっとするのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第26章 (集英社、大熊栄訳)
27 ハードウィック家の人々からは、ヘリオットは正常でない、と思われていたに違いない。何しろ彼らのところに行くと必ずとんでもないことばかりおこり、それは私のせいだと思われていたのだから。車の鍵をロックしてしまい、ダロウビーまで送って行かせられたり、無意識に農夫の眼鏡を鞄に入れてしまったり、ホースウィック家と間違えて訪問したり、牛の大腿骨脱臼を治療するために多数の人間を集めてもらったのに、牛をひっくり返しただけで脱臼が直ってしまったり、とにかくろくなことがない。極めつけは、生まれつき肛門のない豚を診察したときだろう。「この豚には肛門がない!」というヘリオットを、ハードウィック家の人々は「悪い奴じゃないんだが可愛そうに、、、、」と哀れみの目で見つめるのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第27章 (集英社、大熊栄訳)
28 チャンドラー老人の飼犬、ドンは心臓が良くなかった。ヘリオットは、いつ何が起こっても不思議ではない、と言うと、老人はこいつがいなくなると寂しくなる、TVも故障してしまったし、、、、、と言うのだった。ヘリオットがTVのスイッチをいじってみると、突然TVが写りだし、老人は彼に感謝するのだった。あるとき、チャンドラー老人から「直してくれ」と電話。早速駆けつけてみると、直して欲しいと言っているのはドンではなく、また写らなくなってしまったTVのことだった! ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第28章 (集英社、大熊栄訳)
29 元教師だったと言うベイシル・コートニーが、ホワイトヘッド老人の下で働き始めた。彼は農業のことも知っているようだったが、実地が伴っていなかった。彼はいろんなことを知っていたが、どこで習ったのかを聞いても「あっちこっちで、、、」と、はぐらかすだけだった。しかし、彼の話は面白く、みんなの人気者だった。やがて、彼は農業は向いていないのでやめたいと言い出し、ダロウビー近辺から姿を消した。その後、ヘレンとブロートンの立派なホテルでディナーを食べに行ったとき、「あっちこっちで、、、」という耳慣れた声が聞こえる。声のほうを見ると、それはやはりベイシルだった。ウェイターの仕事は、知識豊富で人を楽しませるのが上手なベイシルにとって天職に見えた。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第29章 (集英社、大熊栄訳)
30 カラムとの約束で、早朝に野生の鹿を見に行くことになった。朝3時に起きる羽目になり、さらに現地までの輸送手段は大きな裸馬だった。裸馬に乗ったことがない上に、ゲートを越える際に思い切り膝を打ちつけ、ヘリオットは散々な目にあう。しかし、野生の鹿は本当に魅力的だった。その日の夕方、ヘレンが外出するのを知っていたカラムは、「今日は僕が料理を作ります!」と言う。彼が作ったのは、何の飾り気もないダックのロースト。しかも毛のむしり方が下手糞で、羽をよけながら食べなければならない代物だった。当然デザートもコーヒーもなし。まさしくカラム・デーとも言うべき、魅力的で興奮させらるが、変わった一日だった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第30章 (集英社、大熊栄訳)
31 ホーリー老人は当時まだ生き残っていた素朴で垢抜けない農夫の一人で、彼にとってシーグフリードは奇跡を起こす人であり、ヒーローだった。彼の牛が病気、と言うことで、シーグフリードと一緒に往診する。ぐったりとした子牛を見て、シーグフリードは突然「糸をください」という。老人はまた魔法を見せてくれると期待して意図を持ってきたが、シーグフリードはその糸をボタンの取れたジャケットを止めるのに使ったのだった。しかし、彼の打ったビタミン注射で子牛は回復した。老人が喜んだのはもちろんだが、あの糸を使ってやればさらに喜んだのに、とヘリオットは思うのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第31章 (集英社、大熊栄訳)
32 TVを見ながらシーグフリードと談笑しているときに、彼は「マトック農場に行ったとき、君が牛の角を切りに来てくれないと言ってたけど、、、」と言う。私は忘れていたので、早速謝る。彼は「ハーディさんのところのツベルクリンテストも先月やると聞いてたけど?」とさらに尋ねる。これも忘れていたので、早速謝る。彼はさらに「こういうことは信用をなくすから気をつけてくれ。君は忘れていたんだね?」としつこく言う。ヨークシャーで一番物忘れの激しい男に言われたくないと思って反論しようとしたら、農民談話会の会長ブラムリー氏から電話。「30分も前からシーグフリードの講演を聴きに来た人が待っているけど、どうしたのか」とのこと。慌てて家を飛び出すシーグフリードに向かって、「君は忘れていたんだね?」と、ヘリオットは指を一本振りながら行ってやったのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第32章 (集英社、大熊栄訳)
33 カラムがもう一匹犬を飼いたいと言い始めた。どんなことが起きるか予想が付くので難色を示すシーグフリードに、ヘリオットも説得の手助けをする。ついに根負けしたシーグフリードは「好きにしろ!」と言うのだった。カラムの連れてきたのは、2匹のドーベルマンだった。一匹だけ連れてくるのでは寂しかろう、とのことだった。翌週、ヘリオットが裏庭へ向かっていると外便所のあたりで、犬のうなり声と助けを呼ぶ人の声が聞こえる。ドーベルマンに追いかけられ、外便所に逃げ込んだシーグフリードが助けを呼んでいるのだった。カラムが駆けつけ、シーグフリードは一命を取り留める。私は彼に謝った。彼の予想は当たっていた。スケルデールハウスは徐々に動物園化して来たのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第33章 (集英社、大熊栄訳)
34 土曜日の夕方8時にビアス氏から電話。往診すると、ラブラドール犬がひどい疥癬で苦しんでいた。薬を処方して帰ってくるが、その間、ビアス家の人々はTVに夢中で、犬にもヘリオットにも見向きもしなかった。その後、ファロー氏の農場へ。ここはビアス家と大違いで、苦しむ牛を優しく介抱するし、ヘリオットにも温かい紅茶を出してくれた。しばらくしてビアス家を訪問すると、疥癬の犬、ジェットに薬さえ与えていない。ヘリオットは怒り、自分で薬を塗る。それを見ていた隣の家に住む老人は「治りますか?」と心配げに尋ねる。翌週、ヘリオットがジェットを診に行くと、その老人が薬を塗ってくれていた。結局、ジェットは隣のハウエル老人夫妻にもらわれていった。ジェットは夫妻の甲斐甲斐しい世話で、疥癬が快癒し、見違えるような美しい犬になったのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第34章 (集英社、大熊栄訳)
35 バズビーさんから牝牛が調子が悪いと電話。すぐに行くと、電話を切ると、ガーディナー夫人が骨折したテリアを連れてきた。泣きそうな夫人のために、早速治療し、バズビーさんの牛を見に行くのが遅くなってしまう。事情を知ったバズビーさんは、「ただのペットと生活の糧になる牛とどっちが大切なんだ!」と怒り狂う。数日後、犬を治療してくれと電話で予約が入る。しかし、角を折って大出血している牛を見に行かなければならなかったので、後回しにする。委員に戻ってみると、予約をしていたのはコルギーを抱いたバスビー氏だった。「農夫にとっては生活の勝てである牛を見に行かなきゃならなかったので、、、」と言い訳すると、バズビー氏は「世の中には金より大切なものがある。お前は金のことしか考えられないのか!」と怒り狂うのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第35章 (集英社、大熊栄訳)
36 ダロウビー警察から、電話。覆面をした不審者を捕まえたが、その男が「ヘリオット先生に効けば無罪だと証明してくれる」、とのこと。名前を聞くと、バーナード・ウェイン。ヘリオットは「じゃあ、覆面は白地に赤の水玉模様ですか?」と尋ねるとその通りだった。彼は別名シスコ・キッド、姉のミス・ウェインと一緒に農場を経営しているのだが、ちょっと頭が弱く、姉にはいつも「役立たず」とこき下ろされ、気の毒だった。羊の助産に行ったときも、気を使って「これは獣医でないとできない仕事だ」とわざと難しそうなふりをするぐらいだった。彼は悪臭に弱く、いつも臭いを防ぐために水玉のハンカチをマスクに使うのだった。彼の最大の楽しみはダロウビーに出てきてフィッシュ・アンド・チップスを買うことで、そのことで頭が一杯になって、覆面を取るのを忘れてしまったのだろう。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第36章 (集英社、大熊栄訳)
37 ブッシュさんの子豚が豚白痢。往診したが手遅れ。ネオマイシンを処方するが期待していなかった。余日訪問してみると、12匹全部回復していた。ヘリオットは大いに喜ぶが、ブッシュさんは極めて無感動だった。無感動といえば、グレシャム卿の農場の4人の使用人も無感動で、ヘリオットがどんな素晴らしい治療をしてやっても、全く無視するだけ。ところが、ヘリオットがサッカーくじの当たり券を持っているのを見た途端、態度が変わる。彼らは今まであたった人を見たことがなく、ヘリオットにくじの申し込み用紙を書いてくれ、と頼む。3回書いてやって3回とも当たり券となり、それ以来、グレシャム卿の農場を訪問するたびに、彼らはヘリオットを尊敬のまなざしで見つめるようになったのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第37章 (集英社、大熊栄訳)
38 未経産牛の助産をしていたとき、後少しで手が届かない。近くで診療中のカラムを呼び出して、彼の長い手で手伝ってもらうことにした。助産の休憩の際に、カラムが「今度結婚することになった。」と言うので、大いに驚く。相手は彼がロンドンの獣医学校時代に知り合った女性だった。変人カラムの相手はきっと変わった女性に違いない、と思い込んでいたが、実際にそのフィアンセ、ディアドリーに会ってみると、「やさしい」とか「母性的」という言葉がふさわしい素敵な女性だった。彼らはヨークシャーの牧草地の中に立つ古い教会で結婚式を挙げたのだが、いかにも彼等らしいと思った。ディアドリーはいわゆる過程的な女性ではなく、生き物や植物に興味を引かれるタイプで、夫の精神構造に完全に調和した女性だった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第38章 (集英社、大熊栄訳)
39 カラムのあなぐまは3匹になった。さらに病気のふくろうが医院内を飛び回るし、子狐は吠えるしで、徐々に多種多様な動物が集まり始める。そして、ダイアナ・サーストンのペットである猿まで預かることになった。シーグフリードはそれを非難するが、彼女が旅行している間だけと聞いて、とりあえず納得する。しかし、ヘリオットはダイアナが半年間オーストラリアに旅行に行くことを知っており、愕然とするのだった。t来月にはドーベルマンのあんなガ出産すると言う。スケルデールハウスはいまや立派な動物園だった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第39章 (集英社、大熊栄訳)
40 エディ・カーレスの農場で妙なものを見つけた。大きな黒いイグルーのようなものは、ユージーン・アイアスンの住まいだった。彼はブロートンの鼻持ちならぬ大金持ち、コーネリアス・アイアスンの弟で、若いころに世界旅行に出発し、久しぶりに故郷に帰ってきたのだった。ヘリオットは彼のイグルーの中に招待される。彼は一匹の猫、エミリーを可愛がっていた。ヘリオットはエミリーの避妊をしてあげようとするが、彼女はすでに妊娠していた。エミリーが臨月になるが、すごい難産。医院に連れ帰り、帝王切開してみると巨大な子猫が一匹だけ。エミリーが無事でユージーンは大喜び。彼は兄のような金持ちではないが、兄の持っていない宝物、エミリーがいれば幸せなのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第40章 (集英社、大熊栄訳)
猫物語:第5章 (集英社文庫、大熊栄訳)
41 ランバーン卿の農場で、流産ワクチンの注射をしようとしていたとき、そこの長期労働者のナット・ブリッグスのお尻に誤って注射針を引っ掛けてしまう。しばらくたってその農場を訪問すると、ナットが「子供の作れない体になってしまった!」とヘリオットに対して怒りまくる。しばらくしてまたその農場を訪問した際に、ヘリオットはまたしてもナットのお尻に抗生物質の入った注射針をひっかけてしまう。ほぼ一年後、ランバーン農場を訪れると、ナットが父親になったことを知る。彼の同僚は、「先生は最初の注射で子作りをだめにしたが、二度目の注射で解毒剤を打ったにちげえねえ!」と言うのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第41章 (集英社、大熊栄訳)
42 シーグフリードは、ヘリオット夫妻がいつかはひなびた村で暮らしたいと言う希望を持っていることを知っていた。ある日、彼はハナリーでこじんまりとした家が売りに出ていることを知らせてくれる。早速ヘレンと見に行くことにした。ハナリーの村はヘリオットもよく知っており、高い丘の中腹にある美しい村で、ヘレンは「ここに住んだら天国でしょうね」と言うのだった。早速ヘリオットはその家を買うことにした。幸福な想い出が一杯詰まったローワン・ガースを出るときには悲しかったが、ハナリーの自然は素晴らしいものだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第42章 (集英社、大熊栄訳)
43 カラムはダロウビーでダンスクラブを組織した。グラスゴー時代にスコティッシュ・ダンスを踊ったことのあるヘリオットはそのアイデアに協力する。でぶのアルバート・パッドも誘われたが、彼はダンスに全く向かず、散々な目に会う。キルトを穿いて見事なダンスを踊るカラムとディアドリーの姿は立派なものだった。しかし、彼の後についていくものには、常に危険な隠し味があった。ヘリオットにとっては鹿を見に行ったときの裸馬、シーグフリードにとってはドーベルマン、そしてアルバートの場合は、このダンスだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第43章 (集英社、大熊栄訳)
44 ハナリーの新居に、子連れの猫がやってきた。えさを与えると、毎日やってくる。やがて母猫がいなくなり、子猫たちだけになった。この猫たちは、決してヘリオット夫妻に慣れ親しむ様子を見せなかった。せめて雨宿りしている薪小屋を快適にしてやろうとして、囲い板を打ち付けたり、クッションを入れてやったが、近づいてこなくなってしまう。四方を囲まれると、逃げられなくなると感じるほど野生の強い猫たちだった。三毛猫のメスはジニー、黒白のオスはオリーと名づけられた。彼らが成長したとき、無理やり捕まえて避妊手術を行った。この結果、ヘリオットは猫たちから徹底して嫌われてしまうことになった。冬になり、猫たちは風邪を引き、初めて家の中に入って来た。治療をしてやるが、ドアを閉めようとするとたちどころに逃げてしまう。彼らは家が欲しいのではなく、ただ風邪を治してもらいたいだけだったのだ。やがて、猫たちはヘレンにはなれて触らせてくれるようになったが、ヘリオットは相変わらず、避けられてしまうのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第44章 (集英社、大熊栄訳)
猫物語:第4章 (集英社文庫、大熊栄訳)
45 ブルセラ症の発作が出た翌日、診療所に出て行くと、シーグフリードは一人では往診に出かけることを許さず、カラムと一緒に行け、そして車に乗っているだけで何もするな、と言うのだった。二人で、「頭のいい奴」で通っているストット氏の牛を見に行く。ストット氏は初めて会うカラムを試すために、健康な牛を診させる。当然ながら、カラムはどこも悪いところを見つけられない。ストット氏は「心地よい笑いほどいいものはない!」と笑うが、腕を糞まみれにしたカラムは馬鹿にされたと感じたと思う。その後、本当の病牛を診る。典型的なアセトニーミア。しかし、カラムは「スプーンを貸してください」と妙なリクエストをする。神妙な顔で、肋骨をスプーンで叩き、「鈴の音がする。これは皺胃の転移で重症。大規模な開腹手術をしないと死に至る!」と宣告する。さらに、もし手術がいやなら、畜殺場送りと言う手もある、と告げる。ストット氏はショックでうなだれていると、カラムは「冗談ですよ。心地いい笑いほどいいものはないですからね!」と、仕返しをしたのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第45章 (集英社、大熊栄訳)
46 オリーとジニーはヘレン以外にも、子供たちや村の人にも慣れてきた。しかし、ヘリオットだけはいまだに慣れずに、少しでも近寄るとすぐに逃げられてしまう。獣医としてのプライドが大いに傷ついた。オリーの毛が伸びて見苦しくなったので、捕まえて散髪してやることにした。エサに睡眠薬を混ぜて与え、捕まえて毛玉をカットしてやる。しかし、これがオリーには気に入らなく、ヘリオットに対する評価は下落したままなのであった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第46章 (集英社、大熊栄訳)
猫物語:第6章 (集英社文庫、大熊栄訳)
47 モリー・ミニカンさんの犬、ロビーは原因不明の病気にかかる。いろいろな治療法を試すが回復しない。新しいステロイド剤を注射し、初めて症状を和らげることが出来た。しかし、しばらくすると、ロビーの病は再発し、その都度ミニカンさんはSOS!と言ってくるのであった。ミニカンさんは数年前、世界的な外科医、アーミテイジ卿の手術によって一命をとりとめていた。また、彼女は、ジョン・ウェインの大ファンだった。やがて、ロビーの発作は危機的なものとなり、安楽死させざるを得なくなった。そして、その数週間後、ミニカンさんも亡くなった。さぞやミニカンさんはヘリオットを役立たずと思って亡くなっていったと思うと残念だった。そんなヘリオットをヘレンは慰める。彼女は、ミニカンさんが持っていた「私の好きな3人の男」という写真を見せてくれた。それは、アーミテイジ卿、ジョン・ウェイン、そしてヘリオットの写真だった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第47章 (集英社、大熊栄訳)
48 コールウェルさんの家から出てきた人が、ズボンの裾止めを外しながら「この家では蚤が足に這い上がる」と言う。馬鹿なことを、と思いながら、家の中に入り、車に轢かれたという犬のルーピーを診察するが、幸いにも致命傷ではなかった。ハナリーへの帰り道、足がちくちくする。車を止めてズボンの裾をめくってみると、蚤が一杯這い上がっているのだった。ハイフィールドに到着するやいなや風呂に入り、来ていた福をすべて取り替え、ヘレンと一緒にブロートンでの半休を過ごしに出かけた。レストランに出かけるが、まだ蚤は退治されておらず、せっかくの食事が滅茶苦茶になってしまう。再度家に帰り、風呂に入り服を全部取り替えてからブロートンに戻ってコンサートに出かける。しかし、まだ蚤は残っており、コンサート中、体をよじらざるを得なくなり、一緒に出かけたホイットリング姉妹の顰蹙を買ってしまった。以降、コールウェル家を訪問するときは必ず裾止めを持っていくようになったのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第48章 (集英社、大熊栄訳)
49 シスター・ローズの動物避難所にループ・ネリストがやってきた。彼はダロウビーのよく流行る食品雑貨店経営者で、今はハーグローブ市に移り住み手広く事業を行っている。彼は愛犬をなくしたばかりで、ヘリオットの助言に従って、シスター・ローズの元に新しい犬を探しに来たのだった。彼はティッチという片足の不自由な犬を選んだ。ループも子供のころ小児麻痺を患い、片足が不自由だった。ネリスト夫妻の庇護の下で、ティッチは見る見る美しい犬に変身した。彼は、ヘリオットにティッチの不自由な足の手術を依頼する。カラムと二人で難しい手術をこなすが、数ヶ月たってもティッチは相変わらず3本足でしか歩けなかった。あるとき、ついにループがハーグローブの市長に選ばれる。カラムとヘリオットは就任式典を見に行く。そして、そこでティッチがついに4本足で歩き、あまつさえよいほうの足を上げて立小便をしているのを目撃し、幸せな気分になるのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第49章 (集英社、大熊栄訳)
50 ヨークシャーの美しい村、ウェルズビーにあるロード・ネルソン酒場は、かつては典型的なヨークシャーのパブだったが、経営者が変わって以来、ありがちな「ちょっと洒落たパブ」に模様替えされた。かつての常連だった農夫たちは寄り付かなくなったが、ボブ・ストックデールだけはやってきた。あるとき、ヘリオットがロード・ネルソンを訪れたとき、彼の犬、メグがいなかった。話を聞くと、「腹に癌ができてもう長くねえだ」と落ち込んでいる。ヘリオットは話を聞いて単なる乳房腫瘍と思い、ボブの家に見に行くことになった。診てみると確かに良性腫瘍。ボブに診療所につれてくるように言うが、煮え切らない。ヘリオットは、ボブの弟のアダムに手伝ってもらい、その場で手術をする。その間、ボブは臆病に目をそむけているだけだった。1ヵ月後、ロード・ネルソンを訪れると、ボブと綺麗になった目具がいるのを見つけ、ほっとするのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第50章 (集英社、大熊栄訳)
51 カラムが「僕に向いている仕事のチャンスがあるので、そろそろここを辞めるつもりなんです」と言う。どこに行くのかを問いただすと、なんとノヴァ・スコシアだと言う。いかにもカラムらしい選択だった。カラムは変人だったが、彼が去った後、ヘリオットの心に大きな隙間を残したのだった。その後のカラムは、ノヴァスコシアの動物診療に大きな貢献をしただけでなく、ボーダー・コリーのブリーダーとなり、6人の子供の父親となった。さらに20年後、カラム家はニューギニアに引っ越した。牛、羊、鶏を地域農業に導入し、ボーダー・コリーやラブラドール、水牛、馬、牛、ヒヨコ、伝書鳩に囲まれて暮らしているのだった。まさしくあなぐま先生は、大規模動物園を作ってしまったのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第51章 (集英社、大熊栄訳)
52 オリーの毛玉がまたもやみすぼらしい状態になってきたので、ヘレンと二人羽織をして、オリーを捕まえ、診療所に連れて行き綺麗に散髪してやった。オリーは前にも増して、ヘリオットを避けるようになる。ヘリオットは何とか猫たちと仲良くなろうと、えさをやる地道な努力を始める。やがてその努力は実り、オリーは指で触らせてくれるようになった。その翌朝、へレンはオリーが四肢を突っ張り背中を丸くしているのを見つける。診療所に連れて行き、可能な限りに治療を試みるが、その甲斐むなしくオリーは死亡した。脳卒中だった。オリーの死後、ヘリオットはジニーと徐々に仲良くなることが出来た。ジニーと鼻と鼻をくっつけ合わせていると、ヘリオットは獣医としての最大の勝利のひとつだと感じるのだった。 ドクター・ヘリオットの「生きものたちよ」:第52章 (集英社、大熊栄訳)
猫物語:第9章 (集英社文庫、大熊栄訳)