James Herriot - Children's Books



MOSES THE KITTEN (1984)

ヘリオット先生の子供向け絵本の第1号です。

原作は"VET IN HARNESS"の第11章の「豚に育てられた子猫、モーゼス」の話です。

ピーター・バレットの挿絵は人里離れたデールの農場を美しく描き出しております。風景の雰囲気からすると、モデルにしたデールはスウェイルデールの上流、もしくはアーケンガースデールあたりでしょうか。

なお、このカバーは、アメリカ版で、セント・マーチンズ・プレスから出版されたバージョンです。私が持っている英国版のマクシミリアンから出版されたバージョンは、アメリカ版より一回り小さく、カバーのタイトルが四角い囲みに入っておりません。

 



ONLY ONE WOOF (1985)

「たった一度のワン!」ですね。原作は"VET IN HARNESS"の第26章の「生まれつき吠えることのできないシープドッグが唯一吠えたとき」の話です。

ヘリオット先生はこの話が大好きだったらしく、この絵本のほかにもオムニバスの"JAMES HERRIOT'S DOG STORIES"(邦訳:愛犬物語)、"JAMES HERRIOT'S FAVOURITE DOG STORIES"(邦訳:犬物語)にも紹介されています。

ピーター・バレットの挿絵は、夏のデールの美しさをよく描き出しております。夏になると、ヨークシャーの各地でアグリカルチャー・ショー(農業共進会と言うのでしょうか?)が開催されており、この話に出てくるようなシープドッグのコンテストが行われています。




THE CHRISTMAS DAY KITTEN (1986) 

私の大好きな「クリスマスの子猫」です。

原作は"VETSI MIGHT FLY"の第10章の「クリスマスの朝に瀕死の母猫に連れられてきた子猫」の話です。

ヘリオット先生はこの話も大好きだったらしく、この絵本のほかにもオムニバスの"JAMES HERRIOT'S CAT STORIES"(邦訳:猫物語)でも紹介されています。

なお、この作品からイラストレーターがルース・ブラウンに変わりました。ルースの挿絵も、詩情を感じる素敵なタッチです。なお、本編では母猫のデビーも子猫のバスターも黒猫だったと思うのですが、絵本では雉トラというかタビーになっています。



BONNY'S BIG DAY (1987) 

はじめ読んだとき、この絵本の原作がよくわかりませんでした。
でもよく読んでみると、これは"IT SHOULDN'T HAPPEN TO A VET"の14章、邦訳で言えば「ヘリオット先生奮戦記」45章、「昔、ともに苦労して働いた2頭の馬を大切に世話をするジョン・スキップトン老農夫の話」ですね。絵本の後半が、完全にオリジナルにはないエピソードになっています。

後半では、ヘリオット先生の薦めにしたがってスキップトン老人が愛馬ボニーをダロウビーの農業ショーのペットコンテストに出すのですが、「馬はペットとして認めない」という頭の固い審査員とのバトルなどがあった後に、見事「ペットとして」優勝し、ダロウビー・アンド・ホウルトン・タイムスに写真が載る話になっており、楽しめます。

いずれにせよ、家畜を単なる労働力として考えずに、ペット同様にかわいがる農夫たちもいることをヘリオット先生は書きたかったのだと思います。




BLOSSOM COMES HOME (1988)

ヘリオット先生の子供向け絵本の第5号です。

この絵本の原作は、"VETS MIGHT FLY"の1章、「老牛ブロッサムを屠畜業者に売り払ったデイキン老人だが、ブロッサムが戻ってきたので二度と彼女を売りに出さないことに決める話」だと思うのですが、絵本では、ストーリーの中程が、オリジナルにはないエピソードになっています。

ブロッサムが売られていった後、ヘリオット先生はデイキン老人をなぐさめ、その後、ブリストンの村のピカリング夫人を訪問します。このピカリングさん、上記「クリスマスの子猫」バスターの飼主、ということになっています。本編ではエインスワース夫人となっていたと思うのですが。

彼女のもの悲しげな顔つきのバセットハウンドを治療しているとき、窓の外を見ると、なんとブロッサムが逃げてくるのです。驚いたヘリオット先生は表に出てブロッサムがどこに行ったのかを確かめに行きますが、すでに彼女はデイキン老人の元に戻っていってしまったのでした。

その後のお話は本編と同じです。子供向けと言うこともあって、デイキン老人の悲しみと喜びをよりドラマティックにするために、こんな構成にしたのでしょうね。

私は、この絵本の話の流れ、気に入っています。ブロッサム・ファンの皆様、ぜひ一度お読みになってください。また、カバーのイラストが、エディションによってまったく違うものもあるようです。




THE MARKET SQUARE DOG (1989)

「市の日にちんちんをしておねだりする犬」のお話です。

この絵本の原作は、"VET IN A SPIN"の7章、および"JAMES HERRIOT'S DOG STORIES"(邦訳:愛犬物語)で紹介されていますが、絵本の筋書きはだいぶ子供向きに書き直されています。

本編では、ダンスパーティに出かけるところだったヘリオット先生とシーグフリードが、眼球が飛び出してしまった犬の大手術を行いましたが、絵本ではあんまり気持ちの悪い描写はされておりませんし、手術を担当するのは、ピクニックに出かけようとしていたヘリオット先生とヘレンです。

また、最後も若い警官のフェルプスさんが「あの犬を逮捕しました。」と言って、ヘリオットをあわてさせる一こまもあったりして、本編とは異なっています。
 




OSCAR: CAT ABOUT TOWN (1990)

「社交的な猫、オスカー」のお話です。

この絵本の原作は、"VET IN A SPIN"の23章、および"JAMES HERRIOT'S CAT STORIES"(邦訳:愛犬物語)ですが、この絵本もかなり子供向きに書き直されています。

上記の"THE MARKET SQUARE DOG"同様、トリスタンとの大手術の描写は、子供にはあまりに刺激が強いのか、ばっさりとカットされています。
また、ヘレンがオスカーを失った大きな悲しみなどにも、触れられていません。

オスカーが出かけていく場所も、「帽子コンテスト」だったり「教会のバザー」だったり「サッカーの試合」だったりと、本編とはまったく異なります。

またギボンズさんのところに戻ってからも、本編のように「ヨガの集会」に出かけるのではなく、村のブラスバンドの練習を見に行くなど、かなり子供向けの味付けになっています。




SMUDGE'S DAY OUT (1991)


この絵本は、ひょっとするとオリジナルかもしれません。

一応、原書を含めてすべてのヘリオット先生ものを読んだつもりなのですが、ストーリーに思い当たるものがないのです。もしオリジナルだとすれば、作品集に入っていない唯一の作品になります。

内容は「広い世界にあこがれて、牧場を抜け出した子羊のスマッジ。しかし、牧場の外は怖い犬がいたり、雪が降って死にそうになったりで、結局自分の牧場が一番安全で幸せだと言うことがわかった」というものです。

ヘリオット先生は「僕はとっても保守的で、変化が嫌いなんだよ。」とよく言っていたらしいですが、そんな彼の性格がよく出た一編ですね。

また、あらすじとは関係ないですが、挿絵の中のボンネット・バスの行く先表示板が"HAWES"となっているのを見て、ルース・ブラウンも芸が細かいなあ、と思ってしまいます。このバスはどこを走っているのでしょうか。おそらくWensleydaleのどこか、おそらくLeyburnあたりから西に向かっているところなんでしょう。周りの風景からすると、Bainbridgeあたりかな?と思うのですが。




JAMES HERRIOT'S TREASURY FOR CHILDREN (1992)

アメリカのセント・マーチンズ・プレスから出版された、上記の8つの絵本をすべて収録したハードカバーの立派な絵本です。

お茶でも飲みながら、この絵本のページを繰っていると、とっても幸せな気分になれます。

しかし、こんな絵本をもらう子供って、うらやましいなあ。